• レビュー
  • 2017/6/4 05:00:32

"落語を食う"<その四>『どじょう汁とくじら汁/煮売屋』②

今この東京でどじょうや鯨はどこで食べれるのか?
なんとそれが両方食べれる、この落語の、この連載のためにあるようなお店がありました。浅草に本店がある「駒形どぜう」。念願のお店にやっと行くことが出来ました。

煮売屋に出てくる上方の街道のどこかのお店とは違い、1801年創業の200年以上続くちゃんとした老舗。もちろん全く違うけど、煮売屋が手本にした汁のはず。本来のどじょう汁・くじら汁を確かめに、江戸文化と鯨文化のオーソリティーで食育通信オンラインのプロデューサーの山本氏に同行してもらい、準備万全で行ってまいりました。山本氏はそのまえの週にここのご主人とも会合で一緒だったそうで、充分すぎるほどの良い状況です。

行った日は偶然にも浅草の三社祭の前日。ちょっと前にゲリラ豪雨になったりと街全体がソワソワした感じの平日の午後。撮影をしたいので、誰も来ないような16時集合にしました。

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遠くからでもすぐに分かる江戸の寄席のような外観の建物で中に入ると、先ずはキョトンとしてしまう間取りというか席。床に長い板が置かれてるだけの、喩えは悪いですが、映画「網走番外地」で見た食事シーンに出てきたようなシステム。しかしこれがまた座ってみると粋だし、すっきり見渡せて他の客の楽しい雰囲気が伝わってとても気分が良いのです。私の本職はお店の設計、いつかどこかで取り入れたい!
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お店には既に何組かのお客様。一人で呑んでるサラリーマン、結婚はしてない感じの熟年カップル、羨ましいばかりの年の差カップル、職人さんらしいおじさんの2人組、それぞれレアケースな方々。しかも皆さん様になってるというか、粋な雰囲気が出てるのです。

靴を預けた後の札はものすごい存在感。写真では分かりにくいですが、長財布よりでかいもの。昭和のレスラー、ハルク・ホーガンを思い出します。
huda(本文用)お品書きも時代劇のような雰囲気があり。どじょうと鯨での思いつく限りの様々な料理とそれ以外のちょっとしたつまみが。
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床に置かれた板のテーブルには隣の席と仕切るようにでかい木箱があり、そこには何本分あるかわからないくらいのおかわりOKのネギ。
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先ずはどじょう汁とくじら汁を注文。意外に安く、なんと300円!
同行して頂いた山本氏はその昔永六輔さんと仕事をしていた時に、一緒に出張から疲れて帰ってくると渋谷店でくじら汁を飲んで精をつけて帰ったそうとか。それを聞いていたので、もっと高価なものかと想像していましたが、庶民的な値段でさらに永さんを偲んでしまいます。

すぐに出てきたお椀はこぶりで、右がどじょう汁で左がくじら汁。見た目からこってりしっかりした感じが伝わります。
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どちらもこってりした甘い、しょっぱい、味噌にそれぞれの肉の味がふんわり香る、胃に染み渡る美味しさでした。味噌は関東の辛い味噌と京都の甘い味噌をミックスさせてると。雰囲気良く味噌を使ってますが、臭みを消してる感じではなく、それぞれ臭みはまったくなく、肉の良い甘みしか感じない。おそらく新鮮だったり処理が上手なのでしょう。

どじょうは身が柔らかくトロトロになるまで煮込んであり、骨もとてもやわらかい。まさに「飲み物」。
鯨は皮を含めて薄くスライスしたものが煮込まれていて、やわらかく獣の甘みがしっかり。以前の猪のときもそうでしたが、ちょっとの量で体温があがり、満足するのがわかります。

煮売屋でもしこれが出てきてしまったら美味しいだけでオチがつかず、落語が成立しないでしょう。長旅で疲れた二人には格別のご馳走だったのではないでしょうか。

それをメニューに出しながらもあるはずのない煮売屋で足止めを食い、田舎の垢抜けないつまみでごまかされている。実はこれまでも何度か同じ目にあっていて、既に慣れてきてるのかも。思うのは、早く伊勢について美味しいものを食べたい、だけのはず。

西遊記での遠い天竺を思いながら、道中で悪者やアクシデントにあい、どんどん成長していく三蔵法師一行のように、彼らも何度もお店選びに失敗しながら、そこでの駆け引きのスキルをアップさせてきていたはず。それでもまともなお酒すらないのは想定外だったようでした。
この二人は次の店でこそちゃんと汁とお酒を呑めるのか、または伊勢に行くまで無理なのか、ひょっとすると伊勢でも呑めないんじゃないか。そんな事を思って聞くとさらに煮売屋の二人の意地悪な可愛がりを楽しめるのでは。
せっかくなので駒形どぜうの他の料理も。

・くじら鍋
うす~い鋳鉄の鍋に脂身のしっかりのった薄切りのクジラ肉にどっさりとごぼう。下からはろうそくではなくきちんとした炭火。ごぼうがしんなりしてきたら食べごろです。脂の甘みがたまらない。ごぼうは有料で追加が可能。
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肉は脂がツヤツヤ。
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・くじらの竜田揚げ
これは鯨の野性味がしっかり。肉の繊維のつくりなどやはり独特だなーと。
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・どじょう鍋
くじら鍋と同じ鍋と炭のセットにムチムチのでかいどじょうがびっしりと。サイズでみればどじょうというよりししゃも。すでに火と味はしっかり通ってあり、それを弔うようにどっさりとネギをかけてあげます。どちらかというとどじょうを食べるというよりはどじょうの香りがついたネギをお酒をちびちびやりながらつまむような嗜み。出汁も使い放題なのでのんりびりやると良いでしょう。
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・柳川鍋
フワフワの卵とじ。お酒もご飯も進みます。どじょうも美味しいのですが卵と出汁が美味しいのがよくわかります。
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・どじょうのから揚げ
これもまたびっくりするくらいの大きさのどじょう。おそらく一番大きなどじょうをから揚げにするのでしょう。鍋のどじょうは柔らかく食べやすいのですが、こちらはバリバリと歯ごたえがあり、ビールにぴったり。タレをつけて食べます。
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・たまご汁
これは山本氏も初めて。あまりの旨さに驚いてました。フワフワの卵の味噌汁。こんなにも合うのかと新しい発見です。でも自分で再現するのは無理なのもよく分かるクオリティの高さ。
子供も大好きな味ですが、おそらくテーブルのない店内を走り回るのでやめたほうが良さそうです。
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・お酒
最後に忘れてならないお酒。老舗でスタッフの数が揃ってることもあり、きちんと良い温度でのぬる燗を出してくれます。さらにお猪口がこれまた洒落てる。
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これだけ分かってれば慌てず楽しんで来れると思います。店の人も煮売屋と違って朝の連ドラのような、親切で素直で優しい娘さんたちばかり。明るい時間から呑んでも全然恥ずかしくないお店なので是非行ってみてください。

Text : masaei

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