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  • 2017/5/28 05:00:52

"落語を食う"<その四>『どじょう汁とくじら汁/煮売屋』①

なかなか食べれない、普段あまり見かけない日本の大事な食材にどじょうとくじらがあります。どちらも簡単には説明と解決出来ない事情がありますが、とても美味しくて栄養があり、日本の農業や漁業の文化に深く根付いた忘れてはならないもの。

それが両方出て来る噺「煮売屋」、江戸ではなく上方落語です。
大阪の喜六と清八が伊勢参りにでかける噺で、弥次さん喜多さんのようにドタバタの旅もの。その道中で腹が減り、街道の煮売屋で何か食べることになったところで噺が始まります。

煮売屋とは魚や野菜などを食べれる状態に調理したものとお酒を売る店で、今で言う居酒屋とか惣菜屋。江戸の煮売屋は噺や書物やWebにも探すと出てきますが、ここは江戸から伊勢に行く街道の途中の煮売屋なので品数も少ない、垢抜けない店なのでしょう。
都会から来た二人と田舎の店の老夫婦のやり取りがこの噺の面白いところ。始めは旅人の二人がすっとぼけてて調子良いのですが、途中から店の老夫婦が更に一枚上手にやりこんでいきます。

そこでの最初のやりとりでお品書きにどじょう汁とくじら汁が登場、なのですが、メニューに載ってるのにそこにはなく、これから捕まえに行くと。オーダーしたものがなかなか来ないときにそんな冗談を言いますが、この噺が素になってるのかもです。
そこで一つ気がつくのは、そもそもどちらもこの時代も高級だったり珍しい食材だったのでは。

先ずはどじょう。
田植えが終わったあたりなら全国的に幾らでも採れそうですが、そこを外すと泥の中に入り込んでしまうのでそうそう捕まらないはず。しかも農村の貴重なタンパク源ですがからみんなで捕りあうでしょう、ウヨウヨ泳いでるなんて事は無さそうです。
宴会芸でどじょう掬いなんてありますが、おそらくウヨウヨしてるところに出くわせばあんな感じでザクザク採られてしまうのだと思います。
私の実家は福島ですが幼少の頃は年に一度か二度栄養がつくというので、味噌汁に入ったものを食べさせられましたが、なれるとほどよいコッテリさでとても美味しかったと記憶してます。

次にくじら。
これもまた小さい頃はいくらでも食べるチャンスはありましたが、途中全く食べれなくなり、ここ数年は安くはないけど食べようと手に入るようになってきました。書物や映像なんかで見ると鯨となるとさすがに獲物がでかいので、漁のやり方や設備がその他の漁業とは全然違い、これは江戸時代にはそう簡単には出来ないな、という感じ。遠洋漁業も出来ないし。当時ならどこの国も団体も文句を言わないのに残念です。

でかい船やモリなど設備がなければ捕まえられませんが、日本では縄文の頃には既に食べてた形跡があるとか。魚とは違う旨さと栄養と量ですから必死にチームワークで捕まえたりしたのでしょう。それ以外には死んで流れ着いたり、迷い込むケースが。
奄美の離島で育った友人から聞いた話で、何十年に一度くらいそういう事があるらしく、その日の事は今になっても語られ、私が聞いたときも昨日あった事のように目をキラキラさせながら楽しく話してくれました。よほど美味しかったのでしょう。

つまりこの時代の海からも遠く都会でもない田舎の煮売屋のどじょう汁・くじら汁は半分ハッタリで書いたメニューに違いありません。それはなかなか手に入らない日本酒とか焼酎が常備されてるようにメニューにのってるのに、大体いつ行っても無い居酒屋のメニューみたいなもの。この捕まえに行くやり取りも何度も繰り返し、仕上がってる小芝居なはず。

そのセットと小芝居にまんまとひっかかり、最後には店に常備在庫してあるつまみを注文させられ、更には酒だか水だかよく分からないものを飲まされそうになるのでした。

【煮売屋のどじょう汁・くじら汁】
ここでもしどじょう汁が出せたら、の話しですが臭みを消すのに味噌がベースになってるはず、そして臭み消しと貴重などじょうを大事に美味しく食べるためにごぼうがどっさり入ってるのではないでしょうか。どじょうが見えないくらいに。
そこでまた「どじょうが入ってないじゃないか!」と新しい展開が予想できます。

同じようにくじら汁。乾燥させたり塩漬けさせたり、やっとの事でここまで運んだ鯨肉はかなり貴重なものでしょうから、パーツがちらちら浮かぶ程度の量でしょう。しかしここではそれが見えなくなっては台無しですから、具は最低限のネギと塩程度でしょうか。鯨の香りを楽しむようなもったいぶったものと予想しました。
そしてまた「これだけでこんな値段か!」という展開も出来るのでは。

おそらくそんなケチな展開をせず、面白おかしく騙されて噺にのっていくのが落語の良さですから、そこでちゃんと汁が出た時の噺も聞いてみたいものです。

煮売屋00(本文用)

Text : masaei

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