• レビュー
  • 2017/3/4 05:00:25

"落語を食う"<その三>『しし鍋/二番煎じ』③

前回イノシシを山のくじら、ということにして食べていたというくだりがありましたが、それを売る店は獣店(けものだな、けだものだな)、山奥屋、ももんじや(百獣屋)などいかつく呼ばれていました。獣は武州甲州あたりから捕まえてくるので甲州街道に面した四谷や麹町あたりに多くあったそうです。今では考えられませんが川柳では麹町というだけでそういう店を表したそうな。

そんなお店が都内になんと1件だけそのままの名前で残っていました。両国の隅田川沿いにある「もゝんじや」。先日春一番の嵐のさなかはじめて行ってまいりました。そして今回もこのサイトのプロデューサーである山本氏にも同行していただきました。

RK-33-1(本文用)

正式には「もゝんじやの豊田屋」ですがここしかないので看板にはもゝんじやだけ。八百屋、だけの看板みたいなものです。またその看板がすごいインパクトでした。軒下には剥製のイノシシがに吊るされ、表の正面には隅田川をにらむ黄金のイノシシがめらめらとライトアップ、どんよりした雲のなかでさらに迫力満点。期待マシマシです。
RK-33-2(本文用)
RK-33-3(本文用)

店の1階は会計のみで、客席は2階にあり、すべてお座敷。品の良い中居さんが忙しく行き来する、昭和のドラマの接待のシーンに出てきそうな雰囲気。もともとは当然平屋だったそうですが、おそらく40年前くらいに上をマンションにしたビルに建て替えたのだとか。照明やエアコンなどちょうどそのくらいの時代のものが揃っていて、まさにタイムスリップ。デザインが気に入ってオークションで探したガスコンロがここにもありました。
RK-33-4(本文用)

襖がすっと開き、ぱりっとした和服にたすきがけをした菅井きんさんのような中居さんが登場。慣れない私に慣れた説明で色々と教えていただき大変助かりました。大事な知識を箇条書きに。

・たれは割下に八丁味噌で煮込んで食べる。この店は甘めな味付け。
→(臭くないのだが)臭みを消すために工夫された味付け
・イノシシは丹波篠山の野生のもの。猟期は11/15〜2/15の間だけ。
→今まさに食べごろ!それでなのか月曜の17時というのにかなり混んでいた。
・しし鍋は豚肉と違って煮込めば煮込むほど美味しくなる。目安は10〜15分くらい。脂が透明になることが食べごろ。
・その他の食べ方はすじ肉の煮込み、ヒレ肉の網焼きなどそう多くはない。
・とんかつなどにしても美味しくない。豚のほうが美味しい。

そして肉が到着。赤の色が豚より全然鮮やか。色だけで言うならマトンとかに近い感じです。そして目を引くのが脂がしっかりしてるというか、きれいでうっとりしました。これで一人分です。
RK-33-5(本文用)

鍋が煮えてきたところで先ずは肉を全て入れ、上から野菜をかぶせます。ここではネギだけではなく、豆腐としらたきとせり。
RK-33-6(本文用)

そして10分経過して食べごろに。野菜はどんどんたれの色に染め上がり、肉は縮んで脂はスッキリ透明に。箸でつまむと厚く切っているせいもありますが、豚よりも弾力があるというかしっかりした感じ。固いとはまた違います。
RK-33-7(本文用)

そしていよいよ実食。
脂がしっかりとした味で明らかに豚とは違う様子。しっかりしてるのに全然飽きないしモタレそうな気配もない。肉が臭いとはそれほど感じないのだけど、甘めのタレが脂の旨さを引出してる感じ。赤身の部分も味が濃く柔らかいビーフジャーキーのよう、旨味よりも滋味深いというか、活力がわくような味わい。それでなのか、それほど量を食べてないのに胸がいっぱいになるというか、満足してきた。最初ちょっと少ないと思ったが、全然そんなことない。RK-33-8(本文用)

山本氏は「もうネギだけで良い」と名言をうみ、噺に出てくるネギの男のようにネギを狙います。噺ではネギに肉を隠していますが、ここでは肉を隠さずとも脂をしっかり吸ってるので、ほかの野菜や豆腐がとてもうまい。脂に力があるので、確かに野菜だけでも充分な力強さ。

そしてその後のうどんがたまらない。あとで喉が乾くのが分かっていてもふたりとも止まらない。豚だったらここまでこってりヘビーな仕上がりにはならないでしょう。さっきからずっと豚と比べて豚に恨みも軽く扱ってるわけでもないのだけど、全然違う生き物でした。

私も噺にならい、日本酒を呑みながらの取材(と言って良いのかどうか)でした。おそらくしっかりした味付けのものでないと負けるだろうと、店のスタンダードである白鶴の本醸造を注文。灘のお酒です。これが正解で、濃い味のしし鍋にとても合いってとまらなくなり、7合くらいひとりで呑んでました。ちなみに山本氏はソフトドリンク。

今回はひとり6千8百円の野獣肉コース。
この鍋の他は、猪のすじ肉の煮付け、鹿の刺身、鹿の竜田揚げ、熊汁、黒豆アイス。全部美味しいですが、黒豆アイスが絶品。そして熊汁の滋味がすごくて美味しいんだけど茶碗1杯がちょうど良く、それ以上は飲めないかんじ。野生恐るべし。強い動物は食べても強いというか、体力がないとこっちがやられてしまいそう。豚と猪の違いはそういうことなのかもしれません。
RK-33-9(本文用)

それ以外に猪のヒレ肉の網焼きを頼み、しっかり呑んで、二人で2万円くらい。安くはないけどこのような経験が出来るのなら高くはないのかも。

最後まできちんと世話をして色々と教えてくれた中居さんにはきちんと心付けを渡す、という大人のマナーも山本氏からきちんと学び、今回も江戸の勉強会は無事に終了しました。

【二番煎じの旦那衆はどうだったのか】
噺でしし鍋を食い、酒をガブガブのんでいたAグループの旦那衆。さぞかし美味しくて楽しかったでしょう。一つ確実にわかったのはしし鍋を食べると体温が上がることでした。お酒もありますが、いつものそれとは違い、体中の血の温度が上がるというかだんだん暑くなってきました。
それだけあったかくなってくると、旦那衆それぞれおそらく二通りあって、ひとつは「これなら外にでて交代しても大丈夫」。もう一つは「もう外に出たくない、このまま楽しく今日は終わりたい」。私の場合は絶対に後者、心の底からそう思います。
みんなも呑んでいけない酒を呑んでるくらいなので、きっと私と同じではないでしょうか。

そう思ってるところへ見回りに来た同心。面倒くさいやつが来たなー、と思うのは全員一致だと思いますが、話がすすむとどうから意外にわかるやつ、わかりすぎるやつ。最後の「もっと薬(しし鍋)を造っておけ、もう1回まわってくるから」というサゲはまた準備が発生する反面、もっとジャンジャンのもう!というお許しが出たとも考えられます。

この後の予想できる展開は見回りに行くと言った同心は実はツマミと酒を求めて夜の街をさまよい、権力を使って美味しい土産を手に入れて戻り、さあさあ改めて乾杯!のところで冷え切ったB2班が戻り、その様子に最初はカチンと来るでしょうが、呑みたい食べたい気持ちはおさえられず、お上もお許しくださってるということで会に加わり、最初の会よりもビッグで楽しい会になったはず。

つまりこの噺は誰にとってもハッピーエンド。それも火事がおきなければなのですが。

Text : masaei

※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対して食育通信onlineは一切の責任を負いません。

ページ上部へ
ツールバーへスキップ