• レビュー
  • 2016/12/3 05:00:30

"落語を食う"<その一>『しっぽく/時そば』①

40を過ぎ、ひととおり楽しいこと辛いことかじって来るとこれまで気にもとめなかったものに興味が湧いてくる。そのひとつが落語。落語は聞くと面白い上、聞いてる自分がちょっと格好が良いのも良い。当然「最近は落語を聞いてます」と格好つけたいところだが、まだそれほど知識が無いので、もしも詳しい相手ならひとたまりもない。そもそも落語で記事を書くなんてかなりおこがましいのだ。

別に知らないでもいいじゃないか。そもそも落語は大衆芸能、知識が無くても充分に楽しめる。落語家だって知らない人にも楽しめるように考えているはずなんだし。
そう思いたいのだが、落語にはけっこう知らない言葉が出てくる。
舞台が江戸なのでモノの名称は全て古い言葉。古いだけなら良いが、今では無いものも多く、わからないと意味がわからず笑えず終いな時もある。中でも多いのが食べ物に関する言葉で、ひどい時はしばらくそれが食べ物と気づかないことすらある。 英語の長文読解で知らない英単語が蓄積していって最後は読む気がしなくなる感じだ。
落語は結局、伝統芸能でもあるので知識も必要なのだ。だが知識さえあれば更に楽しめるとも言える。

そこでこの場をお借りして落語に出てくる見知らぬ食べ物、または今でもあるけど今とは違うものを調べてみたい。先ずは自分で出来る限り調べ、イメージし、絵に起こしてみる。そして実際に食べる。そこで解釈が変わったり、新しい発見があれば面白いではないか。という企画なのです。

【しっぽく〜時そば】

まず1回目はこの季節にちょくちょく演じられる「時そば」。そもそもこのタイトルの時そばこそがくせもの。きつねそばや山菜そばのようにメニューではない。さらに藪そばや小諸そばのように屋号でもない。これで私のレベルが分かってもらえると思う。
メジャーな話なので動画はいくらでも出てくるが、柳家喬太郎師匠のものがマクラも面白く、顔芸も派手でビギナーにもお勧めと思う。

そこで食べられる「しっぽく」が今回の料理。最初のほうに出てくる言葉なのでやはりちゃんとわかってたほうが楽しめる。屋台のそば屋が舞台で、花巻かしっぽくで注文を取り、しっぽくを選ぶのでしっぽくを考えることにするが、どちらも今までそば屋では見たことのないメニューだ。

先ずは状況を整理すると、舞台は江戸時代の冬の夜の外の屋台。
江戸は今と違い高層ビルや室外機などない、低い建物ばかりで熱を発するものがないので今よりもかなり寒いことを理解しないといけない。更に江戸は火災に対しての都市計画をきっちりやっていて、地名にある「広小路」という太い道路は大火事の際の延焼防止スペースがそもそもの始まりだった。ただでさえ人口が多く、車も通らないのに広い通りを幕府がそのままにするわけはなく屋台、特に火を使う店は広小路の真ん中で営業をすることが定められていた。つまり舞台は風がビュンビュン吹く太い道の真中の屋台のそばということになる。客もダウンジャケットなんて着てない、かなりスースーした服装のはず。
体感的には冬の北海道の夜の河原でパジャマでいるくらい寒いんではないだろうか。そこで店が自信をもって勧めてくるということは、当時としてはかなり身体があたたまるメニューではないかということが予想出来る。

次に話からわかるしっぽくとは、
・暖かいそば
・二八そば
・値段は16文
→二八そばの名前は値段から(2×8)という話もある
・すぐ出来る
→屋台だから、というのもあるだろう。
・出汁は本枯節とサバ節
→江戸っ子なは昆布を入れて汁が濁るのを嫌うのだそうだ。
・麺は細い、細いのを良しとしている、
→江戸っ子なのでうどんを下にみている
・コシが強い、コシが大事
・具は竹輪、竹輪麩ではない
→具の主役 。ラーメンでいうところのチャーシューのようなものか。
→竹輪麩を下にみている

さらに色々な師匠の落語を見てわかること。
・最初によく混ぜる。けっこうゆっくり、いきなり食わない。
→やはり熱いのだろう。それと混ぜたほうがうまいメニューなのかもしれない。
・先ず出汁を呑む
→身体を温めたい状況がわかる。それと出汁が特別なのかもしれない。
・竹輪を橋でつまむ
→なるとのように薄く刻んでるのではなく、ある程度ボリュームがある。
・丼は湾曲した深いもの
→そのほうが温かさが保てるのだろう。

最後に私なりの予想
・竹輪は1本を2つに切って、煮染めたもの。
・出汁は温まるために、あんかけのようなとろみがあるのでは。
・その他の具は屋台でも出しやすく、体温をあげるネギなどではないか。

以上からおそらくしっぽくはこんな感じだと思います。
rk01-1%ef%bc%88%e6%9c%ac%e6%96%87%e7%94%a8%ef%bc%89

【しっぽくを探す】
次にしっぽくの正体を知るために、ネットや電話で都内のそば屋を当たったところ、全然ない。あっても関西だったり、竹輪がのってなかったりと、探しているしっぽくではない。ひょっとして全滅したのか、と諦めてたところ、ネットで東京で2件だけやっと発見。安心したのもつかの間で、どちらも去年で店を辞めたと別のページに情報が。さらに悔しいことにそのうち1件は柳家喬太郎師匠が直々プロデュースで、店の名前も落語と同じ「大當りや」。おそらくこれがしっぽくの正解に一番近いはずなのに、ちょっと前に辞めたとは!
あまりに悔しいのと他にアテが見つからなので、その店について色々調べていくと、今でも同じ系列の店が調布の深大寺で営業をしていることがわかった。
連絡して事情を説明し、駄目もとで特別にしっぽくを作ってもらえないか、お願いしてみよう。いざとなれば(シャレではなく)ハッタリで服部先生の名前を語って頼めばなんとかなるんじゃないか。 もちろん私は面識はないです。

電話で事情を説明したところで切り札は使わずとも、快くOKが。さらにもう一つの謎である花巻も出して頂けると。 そのお店は蕎麦屋ではなく、ステキな庭のある深大寺の日本料理屋・水神苑さん。
http://www.musashinokk.co.jp/suijin-en/index.html
長くなってきたんで続きはまた来週で。

Text : masaei

※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対して食育通信onlineは一切の責任を負いません。

ページ上部へ
ツールバーへスキップ