• レビュー活動レポート
  • 2016/9/10 05:00:52

「オリーブオイルの魅力とその使い方」(番外編 ③)「イタリア・ラツィオ出張」

ソンニーノ山(本文用)

 

マテーラを出発する日の朝、9時に教会の前で待ち合わせしようと言っていたジョヴァンニがまだ現れない。やっぱりラテン気質なのかな、と思って待っていたら9時30分を回ってようやく彼のフォルクスワーゲンが角を曲がって現れました。車から降りた彼はなにやら大きな箱を取り出してきて、こう言うんです。

「お土産に持って帰ってもらうためのマテーラのお菓子を拵えてもらおうと、定休日だった知り合いのケーキ屋さんをたたき起こしてたら、遅れてしまったんだ、申し訳ない。」

なんてことでしょう!

カンポバッソで会った時から冒頓としてとても真面目で、どちらかというとあんまり器用じゃないな、って印象だったジョヴァンニは、これほどまでの気遣い屋さんだったんです。ナポリの街の喧騒のイメージもあるのか、南イタリアってややもすると、ちょっと乱暴で怖いイメージがあるかもしれないけど、わたしたちが会ったイタリアの人たちはみんなとってもフレンドリーで、どちらかというと日本人と同じくらいシャイな感じの人たちばかり。

 

マテーラ菓子(本文用)

 

そんなジョヴァンニに別れを告げると、イタリア屈指のビーチリゾート、アマルフィ海岸での一泊を挟んで、ラツィオへとハンドルを進めます。

 

わたしたちが取り扱っているオイルの一つに「イアンノッタ2b」という商品がありますが、こちらはイットラーナ種100%の単一品種オイルです。オリーブには大きく3種類あり、一つはオイル専用品種、一つはテーブルオリーブ(ピクルス)専用品種、そしてもう一つは兼用品種。

イットラーナ種はもともとはテーブルオリーブ用の品種で、別名「ガエタ」と言われているんです。ガエタというのはラツィオ南部の港町の名前で、その昔イットラーナで作られたテーブルオリーブが、この港から各国に運ばれたことから、ガエタと呼ばれるようになったんです。

というわけで、ガエタの港町に立ち寄ることに。

 

ガエタヨット(本文用)

 

ガエタの街は産業港、漁港であると同時に、レジャーボートも停泊する高級リゾート地でもあります。この日も停泊していたのは100フィートは優に超えてるであろうイギリス船籍の豪華ヨットの数々。いつかこんな素敵なヨットのデッキでオリーブオイルパーティーやりたいね、なんやまて空想を膨らませながら眺めるその美しい船体は、いつまでも飽きることがありません。

遅めの昼食はやっぱり魚介料理が食べたくて、飛び込みで入ったシーフードレストラン。お昼の2時を大きく回っていたんで、わたしたちの他にはお客さんは一人だけ。3本ばかりのクラフトビールの空き瓶をテーブルに転がして少しご機嫌なその彼は、私たちを見つけるや、人懐こくテーブルに寄ってきて

「お前たちはチーノか?」

「いいえ、ジャッポネーゼです」

「そうか、俺は昔ヨコハマへ行ったことがある。ところで、この店へ来たらこの魚介のカルボナーラを食べなきゃだめだぞ」

もちろん、断る理由はありません。

 

魚介リゾット(本文用)

 

魚介といえばオリーブオイル合わせてこそ、その真価を大発揮、って思いこんでいた私たちの先入観を崩すためには、フォーク一刺しのバスタを口に放り込むだけでした。私たちはオリーブオイルバカではありますが、それ以上においしいもんバカでもあります。こういう新しいアプローチでの美味しさを発見するのはとっても楽しい。

 

iフォンのカーナビによると、目的地のソンニーノまでは1時間半くらい、生産者のルチア・イアンノッタとの1年半ぶりの再会はもうすぐ。

 

B&B(本文用)

 

ルチアに手配してもらったB&Bは、日本風に言えばペンション。フランス人のマダムがリタイヤ後に移り住んで一人で切り盛りしている、とてもフレンドリーな宿。荷物を置いてほどなくしたら、見覚えのある、いかついレンジローバーに乗ってルチアが迎えに来てくれました。

 

ルチア(本文用)

 

オリーブオイル会社イアンノッタ社の女性経営者であるルチアは、先のミラノ万博では、ラツィオ州を代表する頑張る女性ということで、会場に彼女のろう人形が飾られるという栄誉に浴しているんです。

でも、そんな彼女にはアントニオという小学校2年生になるちょっとはにかみ屋さんの男の子がいて、アントニオを溺愛する時のルチアの表情は、経営者とはまるで別物の母の優しさ。オリーブオイル作りにも、その優しい母の愛情がつぎ込まれているんだな、と感じさせてくれます。

 

イアンノッタ畑(本文用)

 

イットラーナの茂る彼女のオリーブ畑は、石灰岩質の岩をむき出しにした山肌に切られた段々畑。ときおり混じって見える土は黒みの強い赤土だけど、決して肥えているように見えない、つまり、オリーブを育てるにはあんまり好環境とは言えないような場所です。実際木の生育状態は葉の茂り方や枝ぶりにも勢いはなく、小さいながらも山肌に頑張ってへばりついている、って感じなんです。おまけにこの急こう配の山肌は、収穫作業だってとても大変、単純にオリーブを育てることだけを考えたら、こんな過酷な環境なないですね。でも、逆にこの水分を留めにくい地形や土質が、しっかりしたポリフェノールをたっぷり含んだ高品質なオリーブオイルを生み出す下地になっているんです。オリーブにとっても、生産者にとっても、ある程度の厳しい環境で適度なストレスをかけることが、良いオリーブオイルを作る大事なポイント、オリーブ生産農家の汗と努力の結晶なんです。高品質なオリーブオイルが高価になってしまう理由も、ぜひ分かって頂きたいです。

 

イットラーナ果実(本文用)

 

これがイットラーナの果実。一般的にテーブルオリーブ用の品種は粒がやや大きめで、オイル用の品種は小粒なのが多いんです。イットラーナというのはとても不思議な品種で、通常オリーブの収穫は10月~11月に行うんですが、このイットラーナは12月や1月までも収穫を行う、とても期間の長い品種なんです。

 

アレッサンドロ(本文用)

 

久しぶりの再会に合わせてルチアが用意してくれた食事は、ソンニーノの隣町の山道を登り切った静かな林の中に一軒だけたたずむ、家族経営のリストランテ。

ジュリア・ロバーツ似のつぶらな瞳を持ったオーナー、アレッサンドロの厨房から繰り出される料理は、イタリア料理特有の素朴な郷土色と、少しひねった繊細さを併せ持った、絶妙なお皿たち。

 

モッツァレラ(本文用)

 

モッツァレラ。

今や日本でも美味しいモッツァレラが食べられるようになったんで、珍しくもないんですが、やっぱり現地でいただく新鮮なモッツァレラは別物ですね。そしてこのモッツアレラ、リボンのように結んであるんです。もともとモッツァレラって「引きちぎる」っていう意味、だから、びよーんと伸ばしてそれをクルクルってねじって作るのも、理に適ってますよね。もちろんルチアのオリーブオイルかけちゃいます。オリーブオイルの搾油は10月から11月、だから新鮮な搾りたて「ノヴェッロ」からしたら、半年以上経っているのに、さすがルチアのこだわりのオイル、まったくへこたれることなく、青く鮮烈な香りをバンバン放ちながら、モッツァレラのミルクの香りを引き立ててくれます。

 

マテ貝(本文用)

 

四国高松では、瀬戸内で獲れるマテ貝はとても身近な食材。そのマテ貝をまさか遠く異国の地ラツィオで頂くなんて、一体どんなご縁なんでしょうか。お昼にガエタの港町で頂いたシーフードのおいしさ、その新鮮な魚介類がそのままこの街まで運ばれてくるんですね。このお料理でも、オリーブオイルがそのおいしさの基礎を作っているのは、もう説明はいらないかもしれません。オリーブオイルには主に二つの仕事があります。一つは、料理の骨格を作るために、調理の過程で使う方法。リゾットやパスタ、あるいはアクアパッツァなんて料理はその典型で、オイルが調理過程で乳化することで抜群のコクとうまみに変化していきます。そしてもう一つのお仕事は、料理の仕上げに調味料として回しかけることで、香りと華やかさを演出すること。私たち最高品質のオリーブオイルを扱うものにとっては、こちらこそが、オリーブオイルの檜舞台。このマテ貝のリゾットでは、オリーブオイルはその二つのお仕事を見事に演じきってくれました。

 

自らがグルメで、最高の料理とオリーブオイルのマリアージュを求道者のごとく追い求めるアブルッツォのマッシミリアーノ、ただ高品質なオリーブオイルだけを愚直に搾り、それを世に布かんと不器用なまでに努力を重ねるジョヴァンニ、オリーブをわが子のごとく深い愛情と厳しいしつけで育てるルチア。三人三様の、それは個性にあふれた高品質なオイルを搾っているけど、変わらないのオリーブに対する誰にも負けない情熱です。

そんな彼らの思いがいっぱい詰まった最高のオリーブオイルを、一人でも多くの日本の方々に知ってもらいたいという思いを新たに、ヒウミチーノ空港発ったのでした。

Text : Olive Hills

※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対して食育通信onlineは一切の責任を負いません。

ページ上部へ