• キッチン
  • 2017/4/10 05:00:58

偽ウミガメのスープのレシピ

英国料理である『偽ウミガメのスープ』は十八世紀半ばの料理。偽ウミガメの正体は子牛の頭や足。亀は当時、高価だったので、庶民は代わりに安い肉を使ってウミガメ風のスープを楽しんだというわけです。ルイスキャロルの小説『不思議の国のアリス』に出てくる胴体が亀で頭が牛の偽ウミガメというキャラクターはこのエピソードに由来しています。

文献上、残っている偽ウミガメのスープの作り方は基本的に子牛の頭や足でとったスープに揚げた子牛の脳みそや魚や卵の団子、牡蠣やハーブなどを加えたもの。参考までに18世紀の料理ライター、ハナー・グラスが1784年に書いたレシピは

子牛の頭を掃除し、洗う。大鍋で茹で、皮と舌をはがす。クローブと玉ねぎ、子牛の頭、舌、皮でスープをとる。ナツメグ、アンチョビ、みじんぎりにしたハーブを加え、肉をとりだしてダイスにカットする。バターと小麦粉でルーをつくり、スープを注いでとろみをつける。マディラ酒、胡椒、塩、カイエンヌペッパーで味をつけ、ミートボール、卵のボール、レモンジュースで味を調える。とろみが濃すぎる場合はスープで薄める

というものです。本来の作り方は手間と時間がかかりますので、今回は文明の利器である圧力鍋を投入して簡略化したレシピをご紹介します。ルーでとろみをつける工程も省略し、現代的に軽く仕上げています。

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元々は『スープの国のお姫様』という小説のために考案したレシピで、文庫本の巻末に掲載したレシピと基本的には同じものです。ちなみにこの文庫本、3/7日に発売されましたので、ご興味があれば読んでみてください(←宣伝)

偽ウミガメのスープ(四人前)

玉ねぎ 200g(中1個)

にんじん 200g(中1本)

ニンニク 15g(3〜4片)

スターアニス(八角)  1/4個

オリーブオイル 大さじ1

牛テール肉 350g

牛ひき肉(赤身) 500g

トマトペースト  30g

赤ワイン     200cc

水        1.2L

黒胡椒(ホール)   8粒

ナツメグ     少々

マッシュルーム  250g(2パック)

バター      15g

マディラ酒    150cc

塩 挽き胡椒   適量

浮き実:小さく切ったカブやニンジンなど

シェリー酒 好みで

はじめに述べたように偽ウミガメのスープには「子牛の頭」を使いますが、日本ではBSEの影響もあり、入手不可能です。そこでスープのベースには牛テールと牛挽肉を使います。テールは豊富なゼラチン分を含んでいるため子牛の頭の代わりに、挽肉にはスープの土台となる旨味を担当してもらいます。

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イギリスを代表するシェフ、ヘストンブルメンタールも『mock Turtle Soup』にはビーフストックを使用していますね。

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ミルポワ(香味野菜)には玉ねぎとにんじん、ニンニクを使います。玉ねぎはザク切りにし、ニンジンは薄くスライスします。ニンニクは皮ごと使います。

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圧力鍋にオリーブオイルを中火に熱し、香味野菜とスターアニスを炒めていきます。このとき、玉ねぎをカラメリゼすることが重要。軽く焦げ色がつくまで7〜8分ほど炒めます。

スターアニスを入れる理由はアニトール(フェノール)という香味成分が飴色玉ねぎの硫黄化合物と結びつき、肉の風味を強めてくれるから。(参考『heston blumenthal The appliance of science』the guardian)中国料理では古くから使われるテクニックです。ただし、八角が入っているとわからない程度の量使うことが重要です。

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中火に熱したフライパンでテール肉の表面を焼きます。テール肉には脂がついているので、油を使わなくてもいいでしょう。全体にこんがりと焦げ色がついたら、圧力鍋にうつします。

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牛脂が残ったフライパンで引き続き、挽肉とトマトペーストを焼いていきます。ミートソースを作るときにも説明しましたが(『基本のミートソース〜プロはなにが違う?〜』)とにかく動かさず均一に焼き色をつけることが重要です。

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しっかりとした焼き色がつきました。脂を切りながら、圧力鍋にうつします。

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フライパンに赤ワインを注ぎ、木べらでそこをこそぎながら沸かします。鍋底の旨味を溶かしこんだ赤ワインを圧力鍋に注ぎます。さらに分量の水を注いで、火にかけます。

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十八世紀に書かれた『偽ウミガメのスープ』のレシピには仕上げにマッシュルームケチャップを加えた作り方が散見されます。マッシュルームケチャップとはマッシュルームを塩漬けにした後、濾した汁にビネガー、砂糖などを加えて煮詰めた調味料のこと。(過去記事『キノコでケチャップをつくってみた』)一からマッシュルームケチャップを作るのは大変なので、ここではマッシュルームを入れることで代用しています。

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四つに割ったマッシュルームを15gのバターで加熱していきます。火加減は中火です。マッシュルームから水分が出るので加熱し、味を濃縮していきます。

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写真のように焦げ色がつき、味が濃縮されたところでマディラ酒を加えます。さらに煮詰めていきます。ちなみにヘストンブルメンタールはマッシュルームストックには十年物以上のマディラ酒を使うことを薦めていますが、このあたりは予算が許せば、といったところでしょうか。

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圧力鍋にうつします。

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黒胡椒と少々のナツメグを加えて、圧力をかけます。蒸気が出てきたら弱火に落とし、2時間加熱します。

圧力鍋を使うメリットは120℃〜124℃で加熱できること。高温で加熱することで挽肉やテールの筋繊維が収縮し、旨味成分を完全に抽出することができます。また、圧力がかかっている状態では液体の対流がほとんど起きないため、乳化が進まないのも利点。圧力鍋を使うことでコンソメのような澄んだ色が出せるのです。

2時間経ったら、火を止めてそのまま自然に冷まします。

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その状態がこちら。このままザルで濾し、中身と液体を分け、とりだしたテール肉は角切りにして浮き実に使います。濾したスープはあら熱がとれたら冷蔵庫で一晩冷やします。

一晩経つと表面に脂が固まるので除去します。昔はスープの表面に浮く脂は都度、丁寧に取りのぞけ、と言われたものですが、このように脂を冷やして固めて一気に除去したほうが効率的ですし、この方法には表面の脂により鍋肌からメイラード反応がゆっくりと進み(油脂分はメイラード反応の触媒として作用する)スープの風味がよくなるというメリットもあります。。ジョエル・ロブションもストックの脂分をとる場合にはこのように冷やして一気に取りのぞく方法をとっていますね。

脂分を除去したスープは鍋で温め、塩、胡椒で調味します。このとき、塩はかなり控えめにするのが味付けのコツです。

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角切りにしたテール肉と別に茹でた野菜、トリュフなどを浮き身にしました。コンソメのように卵白を使って完璧に澄ませたわけではありませんが、それでも充分な琥珀色です。最後にシェリー酒を加えて香り付けするとより本家偽ウミガメのスープの味に近づけるでしょう。

Text : naoya

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