• キッチン
  • 2017/2/1 05:00:10

食の仕事人第41回雪平鍋がプロに愛される理由

食の仕事人タイトル

日本料理に欠かせない雪平鍋。その製造工程を見学するために中村銅器製作所を訪ね、三代目の中村恵一さんからお話を伺いました。名前の通り、銅の鍋から扱いやすいアルミまで、様々な種類の鍋を制作されています。

──アルミの雪平鍋はいつ頃から製造されているんですか?

「いつ頃……かなり昔ですね。元々は銅でつくるものなんです。でも、安くて、軽く、使いやすいということで、アルミでもつくるようになりました」

中村銅器製作所の鍋は金属の板を叩いて鍋の形にととのえる昔ながらの「打ち出し」という技法で作られています。鍋肌がつるりとした普通の鍋は「型押し」といって型に金属板をプレスして作られていますが、打ち出しは一つ一つ手作業。槌跡が工芸的な味わいを作り出しています。

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──この鍋はどれくらい練習すればつくれるようになりますか?

「1年ぐらいでできるでしょう。敵は恐怖感です。やっぱりはじめは怖いんですよ。慣れてこないと、ね」

──ところで鍋を叩くのはどういう理由ですか。

「表面積が広がって熱効率がよくなるとも言いますけれど第一の目的は強度を上げるためです。えーと……これは古くなり、やわらかくなってしまったアルミ鍋。空炊きしたり、焼きなめされたりすると、こんな風になってしまいます。力を入れれば、手で曲がってしまいますね」

中村さんが力を入れると鍋は曲がってしまいました。

「でも、こんな風に叩くと……叩くことで分子を不均一にすると、分子同士の結びつきが強くなって硬くなるんだっけかな。うちも昔は手でやっていたんですけど、手よりも強い力がかけられるので今は機械で打っています」

鍋の外側を金槌で打っていくと、たしかに手で力を入れてもまったく曲がらなくなります。驚きの違いです。

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──この鍋ってどれくらい使えるものなんですか?

「数十年は大丈夫です。取っ手が駄目になったらうちで付け替えもしますし、叩き直せばまた使えます」

──長く使えるのはいいんですが、これでは儲からない気がしますね。

「そもそもアルミ鍋は単価が安いですからね」

そう言って中村さんは笑いますが、職人の手作業で作られているとは思えないほどアルミの鍋は安価です。

──時代によって売り上げに変化ってありますか?

「家庭向けは一時期、落ちました。それはアルミ鍋が健康に悪いっていう報道があったでしょう。あれは影響がありましたね」

手仕事に危機が訪れたのは1996年のこと。毎日新聞に掲載されたアルミ鍋がアルツハイマー病の原因ではないか、という記事がきっかけでした。センセーショナルで身近な話題だったことからテレビなども取りあげられ、一時期百貨店の棚などからアルミ鍋が姿を消しました。

現在ではアルミニウムとアルツハイマー病との関係性は否定されています。

そもそもアルミニウムは地球上に3番目に多い元素。我々が普段生活するなかでも息を吸うだけで空気中にただよう土埃やちりからも普通に摂取しています。また、ほぼすべての食品にアルミニウムは含まれています。しかし、身体に悪影響がでないのはアルミニウムは摂取しても健康な人ならほぼ体外に排泄されるから。

実はアルミニウムが疑われた理由は70年代、透析患者に認知症が発生したという報告からでした。透析患者がかかっていたのは認知症ではなく、腎臓が機能しないことによって起こった透析脳症だったのですが、それからアルツハイマー病と関係があるのではないか、という誤解がはじまったのです。

前述のように現在ではアルミニウムがアルツハイマー病の原因ではない、ということがわかっており、アルミを含む薬品(薬には大量のアルミニウムが含まれている場合がありますが)を長期的に摂取している人や、仕事でアルミニウムを扱っている人たちに特に多くアルツハイマー病が発症したという例もありません。

鍋から溶け出るアルミニウムの量もごくわずか。それでも摂取量を気にしたいという方は食品から摂取する量のほうがずっと多いので、そちらを気にした方がいいでしょう。ちなみに世界でアルミ鍋を規制している国はありません。

「危ないっていうのは新聞に大きく載るのに、大丈夫でしたっていう訂正は大抵、小っちゃいんですよね(笑)。でも、プロの方々の需要はあまり変わらないんじゃないかな」

ただ、アルミ鍋が酸に弱いというのは本当です。料理を保存するのにも向いていないので、別の容器に移しかえましょう。そもそも鍋は料理を保存するものではありませんが・・・・・・。

問題は料理の向き、不向き。雪平鍋が煮物に向いているのは底が丸く、胴が上に広がっているから。液体が対流するので、煮立つにつれて出汁が上がってくるのがわかります。鍋が違うだけで料理の味はまったく違います。

「雪平鍋は関東では深さは浅めで、底に向かってなだらかな丸みがある形。関西では口から傾斜をつけてもっとすぼまっているものが多いそうです。その土地の好みがあるんでしょうね」

手作業でつくられる雪平鍋。製造工程を知ると、愛情を込めて扱いたくなります。ユネスコ無形文化遺産にも登録された和食を支える道具、雪平鍋。今日はたまには出汁をとって、煮物でもつくってみましょうか。

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