• キッチン
  • 2015/12/15 05:00:27

ローストチキンをおいしくつくるには〜後編 改良した縛り方と塩水漬け〜

前編では基本的なローストチキンのレシピで試作しましたが、家庭用のオーブンの火力不足にも問題があり、70点くらいの不本意な出来に終わりました。今回は大きく三つの点を改良します。

問題点その1 胸肉ともも肉の火の入りの差

この問題はローストチキンをつくる上の永遠の課題です。もも肉の火の入りにあわせると胸肉には火が入りすぎ、逆だともも肉が生という失敗に繋がります。

これは縛り方によって解決できます。

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前回の縛り方ではもも肉と胸肉が密着しているため、火の入りが悪くなるのです。ポトフなどに入れる分にはいいのですが、、、

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そこでこんな縛り方をします。まずはタコ糸を手羽の部分の下にとおします。これは前回と同じ。

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手羽を折り込むようにして

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胸肉の手前で交差させます。

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ここで一度、結きましょう。

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ギュッとしめます。すると胸肉の皮が引っ張られて張りがでます。

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ここからが前回と違います。引っ張ったら、両手で紐を持ったまま、もも肉を持ち上げて

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鶏肉を前転させます。もも肉は縛りません。

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ひっくり返ったら中心で交差させてもう一回転。

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さっきの位置に戻りました。

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さきほどと同じ位置で最後の縛りです。三回縛るとほどけません。

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できあがり。

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横からみるとこんな感じ。ローストチキンの縛り方としてわりにスタンダードな方法です。こちらのほうが前回の縛り方よりもも肉とむね肉が離れています。ところがこの縛り方でも問題があります。太ももと膝裏がやはり密着しているのです。

イギリスのシェフ、ヘストンブルメンタールは「鶏は縛らないほうがいい」と提案しています。なるほど縛ると形はきれいに仕上がりますし、胸肉の皮が張るため胸肉は美味しく食べることができますが、もも肉の火の入りが悪くなるからです。どちらを優先するか、というところです。

〈そこで新しい縛り方を!〉

今回は基本からは外れますが、モダニストキュイジーヌチームやシアトルのChefstepsのチームが開発した新しい縛り方をご紹介します。調理師学校でなる基本からは大きく外れているので、知らない人の前でこの縛り方をすると怒られるので要注意です。

この縛り方をすれば胸肉ももも肉も両方、美味しく焼くことができるはずです。

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まずは糸を胴体の下、手羽の脇を通します。そこから

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胸の前で、首の皮を抑えるように交差させます。この工程によって胸肉の肉汁が首の周りから溢れるのを防ぐことができます。

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さきほどと同様に腹の部分でクロスさせます。

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次にもも肉の下、膝下のあたりに糸を通して

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膝上を通って、もう一度、クロスさせます。もも肉を糸で持ち上げるような形になります。

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ぎゅっと引っ張ると、もも肉が持ち上がります。

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肛門の部分を巻いて縛ります。

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これだけです。

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こんな感じです。さきほどと見た目がずいぶん違いますね。脚が持ち上がった若干、グラマーな感じです(笑)しかし、胸肉の皮はより張り、もも肉は胴体から完全に離れています。この縛り方によって全体に均一に火が入るのです。

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この角度から見ると、もも肉が胴体と離れているのがわかります。

問題点その2 皮のパリパリ感がない

次に向き合うべき課題は皮のパリパリ感です。パリパリ感がない、ということは水分を多く含んでいる、ということです。家庭用の電子レンジオーブンの火力ですと水分が飛びません。

それだったら水分を初めから飛ばしてしまえばいい、という考えに至りました。中国料理には北京ダックや脆皮鶏という料理があります。これらの皮がパリパリなのは乾燥という工程を含んでいるから。

photo by Flicker(Christian Van Der Henst S.)

photo by Flicker(Christian Van Der Henst S.)

写真はアヒルですが、あらかじめ干すことにより、皮の水分量を減らしているわけです。なるほど、これで問題解決か? と思いきや、マイナス面もあります。肉の水分量も減ってしまう(ジューシーさが失われてしまう)という問題です。そこで解決するためにとった方法が『塩水処理』(ブライニング)です。(参考 鶏胸肉をしっとりジューシーに 〜21世紀料理教室 その8〜

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塩分濃度5%の塩水を用意します。

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レモンのスライスと一緒に鶏肉を一晩、漬け込みます。塩水に肉を漬けると、筋肉繊維の構造が破壊され、収縮性タンパク質の一部が溶解し、筋繊維自体が柔らかくなります。そして、塩とタンパク質が作用しあって、筋細胞内に多くの水分が吸収されます。

水分量を増加させることによって、この後の乾燥工程を経てもプラスマイナスでジューシーさが保たれる、というわけです。

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一晩経ちました。液体から肉をとり出し、表面の水分をよく拭き取ります。

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ここからは乾燥工程です。ラップをかけずに冷蔵庫にしまい、一日置きます。

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24時間経ったものがこちら。表面の水分は完全に乾いています。三日置くとより完璧に鶏の表面が乾きます。

問題点3 焼いているうちに風味化合物が逃げる

前回は焼いているときにいい香りが台所に漂いました。これはせっかくの風味化合物を逃しているのと同じこと。

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そこで今回はイギリスのシェフ、ヘストン・ブルメンタールのメソッドに従い、100度のオーブンで一時間半加熱します。90度のオーブンなら二時間くらいでしょう。まずは胸肉の火の入り過ぎを防ぐために、低温で長時間加熱しておきます。この工程で生焼けも防ぐことができますし、時間はかかりますがオーブンに任せてほっておけばいいので楽です。

【低温のオーブンの内部ではなにが起きているか?】

125度より低いオーブンでは肉の表面からゆっくりと揮発する水蒸気によって鶏肉が冷やされるため、肉の表面温度は70度前後になります。つまり長い時間はかかりますが、ゆっくりと加熱される、ということ。また、そうすることで肉に含まれるタンパク質分解酵素が働き、肉が柔らかくなります。

目指す中心温度は60度。

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一時間半、加熱したらこの状態。胸肉の中心温度をはかると57度でした。まあまあの範囲でしょう。この後、高温のオーブンに入れますからあまり神経質にならずとも大丈夫。ちなみに温度計をさした穴から面白いように肉汁が逃げていくので、温度計を刺す場所は写真の位置ではなくもも肉と胸肉の中間あたりが無難です(すみません)できるなら刺さないで済ませたいところ。胸肉の両側を押して、弾力で火の入りを確かめるのがベターです。(経験が必要になりますが)

鶏肉をそのまま休ませ、そのあいだにオーブンを最大温度まで温めます。

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鶏肉の表面にバターを塗り、最高温度(この電子レンジオーブンの場合は250度でした)で十分間、表面を焦がすように火を入れていきます。

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焼けました。均一な焦げ目がついています。触ってみるとわかりますが、皮はパリパリです。もも肉のあたりに焦げ目が薄いのはバターの量が若干少なかったためです(すみません)

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切り分けましょう。もも肉の両側に包丁を入れて皮を切り、ももにくを引っ張るようにして関節を外します。

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胸肉は真ん中に骨が入っていますからそれを避けるように包丁を入れます。ささみが隠れていますから上手にくっつくて外していきましょう。

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ジューシーさが伝わるか、と思います。

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ブライニング処理のおかげで肉はしっとりと、乾燥の工程のおかげで皮はパリパリになりました。またよく水分が抜けているため、皮が薄く身からはがれにくいのも特徴の一つ。

前回よりも完成度は上がりましたが、もも肉の部分の皮の部分の焦げ目が今一つです。85点くらいはつけれそうですが、もう少し工夫する余地はありそうです。家庭用の電子レンジオーブンの弱い火力でメイラード反応を起こさせるためには二つの方法があります。一つはphをアルカリ性に持っていく方法。これは重曹を皮目に浸透させることで解決しそうですが、特有の苦味が問題になります。

もう一つは糖と酢を混ぜたものを表面に塗る方法です。塗るための濃度が必要ですので水飴がいいかもしれません。酢によって糖がブドウ糖と果糖に分解されるため、メイラード反応が進みます。赤ワインビネガーと水飴を混ぜたものを塗るのはありのような気もします。

最終手段としては醤油と蜂蜜(みりん、あるいは水飴)という手がありますが、こうなると完全に中華料理になってしまいますので本末転倒感が……さて、こういった反省点を踏まえて、家庭用のオーブンの問題をどのように改良できるか。究極のローストチキンを目指す探求は続きます。

Text : naoya

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