• キッチン
  • 2015/6/15 05:00:47

『オックステールの赤ワイン煮込み』の作り方〈肉を煮込む(もしくはスープをとる)ことを学ぶ(第2回)〉

前回は牛のブイヨンをつくりました。今回は『オックステールの赤ワイン煮込み』をつくります。フランス料理の名品のひとつで、調理法としては『ブレゼ』に該当します。ブレゼとは蒸し煮のこと、以前『鶏のブレゼをマスターして、肉料理の科学を理解する』でも取り上げました。

今回はあえて昔風といいますか、割合普通(と思っていますがどうでしょう?)の作り方をします。作っていくなかでメリット、デメリットが見えてくるからです。

材料です。

オックステール  800g

たまねぎ     1個

にんじん     半分

セロリ     5cmくらい

赤ワイン(マリネ用) 200cc

赤ワイン(煮込み用) 350cc

牛のブイヨン     200cc

赤ワイン(ソース用) 200cc

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オックステールは牛の尻尾の肉。ゼラチン質が多く、煮込みに適した部位です。香味野菜と一緒にマリネします。香味野菜の割合は玉ねぎ2、人参が1,セロリが1という具合です。肉に対しての見た目の割合でだいたいの感じを覚えましょう。多少の誤差があっても味にそれほどの差は出ません。

ワインでマリネをすると仕上がった時に一体感が出ますが、この工程は省略することもできます。マリネしないほうが肉の味は強く出ます。マリネすると肉が柔らかくなる、という意見もありますが、ワインのphでは不十分です。赤ワインビネガーを大さじ1ほど加えるとその効果が期待できます。

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ワインはカベルネ・ソーヴィニヨンを使いました。これはコンビニエンスストアで買ってきた750円のものです。色の薄い国産ワインは論外ですが、ある程度のワインであれば大丈夫です。

本来の赤ワイン煮込み(ブルギニオン風)にはブルゴーニュ産のワイン(ピノ・ノワール)を使うのが正しいのでしょうが、ピノ・ノワールは酸味が強く出る傾向があるので、カベルネを選びました。

ジッパー付きの袋にすべての材料を入れ、8時間以上マリネします。

さて、高価なワインを料理に使うといいことがあるのでしょうか。2007年にNYtimesに掲載されたコラム『It Boils Down to This: Cheap Wine Works Fine』は話題を呼びました。これは高級ワインの代名詞、バローロを使った料理と安価なワインを使ったものの味の差を確かめるもので、結果は安価なワインに軍配が上がりました。高価なワインは必ずしも味を良くしないのです。

安いワインを使うことを恐れる必要はない、と記事はいいます。「地域のワインと料理をあわせるのはロマンがある」が、料理の工程のなかで香りのフレーバーなどは失われるため、高級なワインとそうでないワインでの味の差は出づらいとのこと。

しかし、注意すべき成分としてあげられるのはタンニンです。高価なワインにほど多く含まれていますが、これは加熱によって失われることがありません。タンニンの収斂味が濃縮され味を損ねた、と考えられます。

逆に言うとタンニンを活かすのであれば高価なワインを使う意味はありますが、そうでなければ使う必要はない、ということです。記事のなかではソーテルヌのような甘口のワインも安価なものと高価なもの(シャトーイケムのような)で比較していますが、味の差は見られなかったようです。

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漬け込んだ肉をとり出し、野菜を漉しました。

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肉の表面を焼きます。これは肉を焼き固め、味を閉じ込めているのではなく、肉の表面を焼き付けることで美味しい風味をつけているのです。ただし、肉の水分はどんどん失われていくので、手早く行う必要があります。

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焼いたオックステールを鍋に移しました。鍋はちょうどよい大きさのものを使いましょう。これぐらいの肉ならこの大きさの鍋という具合に調理器具を揃えることが安定した味をつくるポイントのひとつ。

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次はオイル小さじ1を加えた鍋で野菜を炒めていきます。中火で5分から10分かけて玉ねぎに焦げ目がつくまで加熱します。

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ここにマリネした赤ワイン、さらに煮込み用の赤ワインを入れ、沸騰させます。肉を入れた鍋でワインを沸騰させる方がいますが、強い加熱(実際アルコールの沸点は低いのですが)は肉の水分を失い、タンパク質を収縮させて硬くしてしまいます。煮汁をつくるときは肉とはわけて作業しましょう。

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アクをとります。

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火を止めてからブイヨンを注いで、液体の温度を下げます。

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肉を入れた鍋に温度が下がった液体を注ぎます。

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さて、いよいよ煮込みに入ります。理想はオーブンを使うことです。ハロルドマギーが薦める工程をまとめると以下のとおりです。

決して蓋をせずに(すこしずらした状態で)、鍋を冷たいオーブンに入れる。100度のオーブンで2時間ほど加熱すると、鍋の中身は50度ほどになる。この工程により、肉の酵素を活性化させ軟らかくする。

次にオーブンの温度を120度にあげます。中身が50度〜80度にゆっくりと温まるようにする。1時間経ったら30分ごとに肉をチェック。フォークがすっと刺さるようになれば、オーブンから出し、一度冷ます。

ブレゼという調理法は火加減に注意することが重要です。18世紀の料理人であるムノンは1749年に発表した著書のなかで『上下に灰を置いて』加熱するように進めています。灰にうずめた熾火のなかで加熱をすれば、ハロルドマギーが薦めるような温度変化になっていたことでしょう。18世紀の調理理論と21世紀の分子料理学がつながる瞬間です。

今回はあえて鍋を弱火にかけて煮込んでいきます。強火は厳禁、高い温度で煮込むと肉汁が流出することは前回の実験で証明しました。→参考『肉を煮込む(もしくはスープをとる)ことを学ぶ(第一回)』

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この時、鍋の液体の温度は66度。

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十分ほどで80度に到達しました。こうしてみると弱火の火にかけて加熱するという方法は加熱方法としては難しいことがわかります。

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ちなみに温度の上昇をゆるやかにできるので、鍋の蓋は開けておいたほうがいいです。30分加熱した段階での温度は90度。

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95度に到達してから1時間経ちました。いわゆることこと煮込む、というのはこの状態。肉の加熱温度を考えるとやや液体の温度が高すぎることがわかります。前回の実験を思い出してください。肉の細菌が死滅しつつ肉をジューシに仕上げるには75度から90度で煮こむのが理想です。

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3時間、経ちました。煮込み時間には注意が必要です。金串を刺して肉の具合を確かめます。軟らかくなったようです。肉によっては4時間ほどかかるものもありますので、そのあたりはケースバイケース。

この鍋でことこと煮込む調理法のメリットはソースが美味しくなることです。ただし、肉からは味が流出していますから、その妥協点をどこに見つけるか、というのが最大のポイントになります。圧力鍋を使うのは厳禁、肉がすかすかになります。

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冷めるまで置いておいてから、肉を一度、とり出します。

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ソースを漉します。野菜をしっかりと絞り出しましょう。

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絞りきった液体を冷やすと表面に脂が固まります。ソースが濁る原因になるので、取りのぞきましょう。

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ソース作りに入ります。小鍋でソース用のワインを煮詰めていきます。煮込んでいる工程でワインのいい香りと味は失われています。こうして後からワインを加える事で、フレッシュな香りと味を足します。

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焦げる前にワインがすっかり煮詰まると照りがでた状態になります。ソース作りの基本テクニックのひとつで、この状態をミロワール(鏡)と呼びます。さきほどの脂をとりのぞいた液体を加えます。

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液体を合わせました。写真を貼りつけていて気が付きましたが、鍋の縁に飛び散ったものはちゃんと拭きましょう。焦げがソースに入ると雑味の原因になります。

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水溶きコーンスターチでほんのすこしだけソースに濃度をつけます。肉を煮こむ前に小麦粉を振っておけばこの工程は省くことができますが、コーンスターチのほうが仕上がりが軽くなります。またゼラチンで濃度をつける方法もあります。

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バター10gを火にかけて焦がしバターをつくります。

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150度になったらOKです。鍋底を濡れ布巾や水などに浸けて、加熱を止めます。

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ソースに加え、泡だて器でよく撹拌します。普通にバターで仕上げてもいいのですが、焦がしバターで仕上げるとキレがある風味になります。

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出来上がったソースのなかでさきほどの肉を温めます。

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盛りつけてみました。付け合わせには人参のピュレを添えました。オックステールの赤ワイン煮込みの完成です。肉はほろりと軟らかく、やや酸味の効いたソースを含みます。一体感のある仕上がりはこうした調理法ならでは。

もっとコクのある仕上がりにしたければ煮こむ過程でトマトピューレなどを加えると洋食風の仕上がりになります。

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にんじんのピュレは皮を剥いた人参を輪切りにして、水とバター、オリーブオイルで水気がなくなって軟らかくなるまで煮てから

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塩、胡椒、バターとミキサーにかけたものです。

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昔ながらの煮込みのメリットはソースが美味しくなることですが、肉の水分は失われてしまいます。というわけで次回はそのあたりの課題をクリアした牛肉の赤ワイン煮込みを作ります。

Text : naoya

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