• キッチン
  • 2014/12/1 05:00:47

究極のマッシュポテトをつくるには?

マッシュポテトは昔からある料理ですが、専門店ができるなど根強い人気があります。今日は家でもできる『究極のマッシュポテト』をご紹介します。

世界一のマッシュポテトと聞くと、ジョエル・ロブションの『じゃがいものピュレ』が挙げられます。ジョエル・ロブションがまだジャマンという店のオーナーシェフだった時代に発表したこの料理について、彼はのちに「自分が三ツ星を穫れたのはじゃがいものピュレとグリーンサラダのおかげ」と語っています。

では、おいしいじゃがいものピュレとはなんでしょう? それはさらりとした口溶けで、少しも粘ついてなく、豊かな風味のものです。反対にまずいマッシュポテトは糊のようにベタつき、口や歯にくっつき、舌に膜がかかったようになるもの。今日はそれを避ける方法をいくつかお教えします。

マッシュポテト

(ジェフリー・スタインガーデンとヘストン・ブルメンタールのメソッドによる)

材料

じゃがいも(ほくほくしたもの) 300g

牛乳(低脂肪でないもの)     100cc〜

バター      75g(もしくは  オリーブオイル75cc)

まずはジャガイモの選び方から。じゃがいもには男爵や農林11号のようにほくほくしたものと、メークインのようにしっとりとしたものがあります。アメリカの作家、ジェフリースタインガーデンはほくほくとした、粉っぽい芋を使うことを薦めています。反対に冒頭にあげたジョエル・ロブションのレシピにはラットやBF15というメークインタイプのものを使うよう指示があります。ネイサン・ミアボルト率いるモダニストキュイジーヌチームはユーコンゴールドポテトという、やはりメークインタイプの芋を使っています。

メークインタイプは煮るのに時間がかかり、潰すのにも力が入りますが、クリーミーな口当たりになるのが特徴です。男爵系ですと潰しやすく、ふんわりとした食感になります。どちらでもそれぞれの持ち味がありますが、今日はジェフリーの指示に従い、ほくほく系の芋を使います。

どちらかわからない時でも確かめる方法はあります。500ccの水に60gの塩を溶かした濃い塩水にじゃがいもを入れ、

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浮かべばしっとり系、

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沈めばおおよそホクホク系です。

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じゃがいもは皮を剥き、厚さ2センチ弱に切ります。(写真はちょっと厚いかもしれないです)大きめの芋のほうが澱粉が少ないので向いています。(新じゃがは駄目)

「じゃがいもは皮付きのまま茹でるべきでは?」という意見に対してジェフリーはこう反論しています。「たしかに皮を剥いて茹でると風味の一部が溶け出してしまう。しかし、どのようなじゃがいもであってもまるごと茹でれば仕上がりにむらが出る。なかがまだなのに外側は茹で過ぎてしまうのだ。茹で過ぎると細胞が破裂してしまう」

マッシュポテトをつくる上で最大のミッションは「細胞を破裂させないこと」です。理由は後述しますが、それを避けるためにじゃがいもは切って茹でます。

小さく切れば早く茹で上がるが、さらされている表面積が大きくなるので、栄養や風味はより失われてしまう。最上の妥協案は1.6センチから1.9センチぐらいの厚さにスライスすることだ

ちなみにこれは日本の研究ですが「調理法の簡便化が食味に及ぼす影響」という論文にはポテトサラダを例に

3cm角 に切 った もの,1.5cm角 に切 っ たもの,丸 ごとの順に評価が高い傾向がみられた。

という記述があります。ジェフリーの記述を裏付けるような内容ですね。

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切ったことにより細胞が破れ、断面に白い液体が浮きます。この液体の正体は、遊離でんぷん。かならず洗い流してください。この遊離でんぷんこそがマッシュポテトを糊のようにべたつかせる原因です。例えば片栗粉(澱粉)を水で溶いて加熱すると、洗濯糊のような物質ができます。これが結果としてマッシュポテトをべたつかせるのです。

遊離でんぷんの流出をいかに少なくするか、がマッシュポテトの最大のポイント。そこで次の工程が鍵になります。

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72度のお湯にじゃがいもを20分間漬けるのです。

即席マッシュポテト業界は何年も前に70度強の湯であらかじめ20分ゆでて冷ましておくと、最後にマッシュするときにできる遊離澱粉の量を半分にできることに気づいた。

仕組みはこうです。普通にじゃがいもを加熱すると、72度までの澱粉が水を吸って膨らみゼラチン状になり、その後、沸点に近づくにつれてペクチンが分解をはじめます。72度のお湯につけることによって、この二つの工程を分離するのです。

芋のスライスを冷ますと逆行と呼ばれるプロセスが起きる。澱粉の分子がたがいに結びつき、水やミルクのなかで溶け出す能力の大半を失う。(中略)逆行はベタつきを防ぐ。

モダニストキュイジーヌチームはじゃがいもを湯とともに真空パックし、それを72度の湯煎器にかける、という方法をとっています。こちらのほうが温度管理が楽です。

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水にさらして冷まします。低温調理をすることでじゃがいもは硬さを保ち、煮崩れることも少なくなります。この反応はさつまいもやカブ類、にんじん、トマト、カリフラワー、豆類、チェリーなどで起きます。ちなみに、55度から60度で加熱をすることでペクチンを硬化させる方法は集団調理の給食現場やレトルト食品の製造プロセスでも応用されています。

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でんぷんが水を吸って白くなっているのがわかります。

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さて、茹ではじめます。じゃがいもの風味が流出するのを防ぐことができるので、1%の塩水で茹でましょう。ところでこのジャガイモはお湯から茹でるべきでしょうか。水から茹でるべきでしょうか。

ジェフリー・スタインガーデンは「スウェーデンのある研究によると(水から茹でると)ねばつき、妙な味が出てしまうことがあるという。また水から茹でるとビタミンCがより失われることを示す研究もある」として、湯から茹でることを薦めています。

反対にモダニストキュイジーヌチームは水から茹でています。今回の実験では両方試してみましたが実際、味の違いは見られませんでしたが、水から茹でたほうがうまく茹で上がりました。もう少しじゃがいもが薄ければ、お湯でも大丈夫かもしれません。

(ただし、まるごと茹でる場合は必ず水からです。これはお湯から茹でると表面と中に温度差ができ、上手に茹で上がらないからです)

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お湯からでも水からでも、大事なことは充分に茹でることです。茹でたりないじゃがいもを無理に潰そうとすると、細胞が壊れてしまい、粘付きの原因になります。

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茹でているあいだに角切りにしたバターを用意します。使用量はじゃがいもの量の25%にあたる重量、今回はジャガイモが300gなので75gです。

あまりの量にひるんでしまいますが、偉大なるシェフ、ジョエル・ロブションはかつて「40%」を推奨し「50%まで増やせばもっとリッチに。さらにはじゃがいもの同量まで増やすこともできる」と言い切っています。あまりにバターを増やすのはやり過ぎですが、20%は少しケチかなという感じでしょうか。プロと家庭の料理の違いはバターの量の違いなのかもしれません。

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バターが手に入らない時はオリーブオイル風味のマッシュポテトという手もあります。ジョエル・ロブションのレシピではエキストラヴァージンオリーブオイルの量も「ポテトの25%」です。これだけの油脂分が入りますが、あまりに怖くて試していません。どなたか挑戦してみてください。

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さて、串が簡単に刺さるくらいに茹で上がりました。崩れる手前くらいの柔らかですが、荷崩れてはいけません。また茹でている湯が濁っていないことにも注目してください。これは遊離澱粉が流出していない証拠です。

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ざるにあげます。この後、じゃがいもの余分な水分を飛ばし、裏ごしする作業に入ります。

じゃがいもの水分を飛ばすためには、鍋にもどして粉ふきいものようにしてもいいですし、裏ごしをした後で火にかけて、水分を飛ばす方法でもかまいません。いずれにせよ重要なことはこの後の作業を迅速に行うことです。じゃがいもの量がある時は湯のなかから少しずつじゃがいもを取り出すようにすると、失敗がありません。

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ジェフリー曰く「ここでの目標は細胞を破壊することなく、ばらばらにすること。これを達成するのに理想的な温度は80度強だ。ジャガイモが冷めて室温にちかづくにつれペクチンのセメントがふたたび固まってきて、マッシュすると多くの細胞が壊れ、糊のようなゲルが出てくる」

ジョエル・ロブションは昔ながらの手回し式のフードミルを、ジェフリースタインガーデン、ヘストンブルメンタール、モダニストキュイジーヌチームはライサーという道具を薦めています。(ポテトライサーで検索すればでてくると思いますが巨大なにんにくつぶしみたいな道具です)ハンドマッシャーは潰した部分をさらに潰してしまうリスクがあり、フードミルはこすりつけることになる、といいます。

今回は裏ごし器を使います。

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使い方にコツがあります。じゃがいもを中心に置き(下には絞ったさらしの布巾を敷いています)

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手を垂直に押さえつけるようにします。決して木べらを引くようにして、裏ごしをしてはいけません。一回でじゃがいもを潰すことで、細胞が壊れるのを防ぎます。

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潰したジャガイモはさらさらとしているはずです。熱いうちに鍋に戻して、弱火にかけて水分を飛ばします。

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鍋底に薄い膜ができたら火をとめて、バターを混ぜ込んでいきます。熱々の芋は驚くほどの量のバターを吸い込みます。少しずつ混ぜていきますが、練らないように気をつけます。ここまで丁寧にしたのに、細胞を壊してしまったら残念ですから。

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ヘストン・ブルメンタールは牛乳にじゃがいもの皮の香りをつけることを薦めています。たしかにこの方法なら、皮の風味も活かすことができます。作り方は簡単、皮と牛乳を鍋に入れて沸かし、20分ほど香りを移すだけです。皮をあらかじめ焼いても面白いかもしれません。

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熱々の牛乳で少しずつ伸ばしていきます。好みの固さになったら、塩で味を整えて完成です。この手順を逆にすると濃度の調整が難しくなります。加えるバターの量を減らして、牛乳の一部をクリームに変えても別の味が楽しめます。例えばジョルジュ・ブランは牛乳ではなく、クリームだけでつくるレシピを発表しています。

気持ちに余裕があれば、この後、もう一度裏ごしをしましょう。さらに口当たりが滑らかになります。保存するときはオーブンペーパーをかぶせて、表面の乾燥を防ぎます。温めなおすこともできますが、少量の牛乳を補うと良いでしょう。ちなみにジョエル・ロブションは提供直前に空気を含ませるように泡立て器で混ぜることを薦めています。

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出来上がった熱々のマッシュポテトです。滑らかな口どけはバターのおかげ。

ピュレにするのに適したジャガイモの品種はなんなのか(キタアカリ? それともとうや? 個人的にはとうやはお勧めでしょうか)、バターはポルティエを使うべきか、エシレがいいのか(ロブションはポルティエを推薦しています)それともじゃがいもは茹でずに焼いたほうがおいしいのか? 究極のマッシュポテトをつくるにはまだまだ考えなければいけないことがありそうです。

Text : naoya

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