• キッチン
  • 2013/7/15 05:00:57

塩の味 〜21世紀料理教室 その3〜

分子料理学によく寄せられる批判に「化学物質を料理に使うのは正しいことではない」というものがあります。
その意見も一理ありますが、実際、食べ物は様々な化学物質で構成されています。
まずは水。ご存知、H2O。砂糖の主成分はショ糖、C12H22O11ですね。酢の主成分、酢酸はCH3COOH・・・・・・etc。
油もコーヒーも野菜も肉も、分子レベルまで観察すると、すべて化学物質の塊です。
なかでも最も身近で、もっとも 古くから存在している化学物質が、塩──NaClです。

今日のテーマは塩。

th_塩

小学校の授業のおさらいのようですが、塩はナトリウムイオンと塩化物イオンの結合物です。水中ですとイオンは分離し、固体では結晶になります。
塩は海水からつくられるほか、山で採れる岩塩もあります。
人体に塩は不可欠で、欠乏すると死んでしまいます。
さらに塩味は5つある基本的な味覚のひとつ。(他の4つの基本味は苦味、酸味、甘味、そして最近、認められたうま味です)また塩にはそれ自体の味のほかに『食材の風味を引き立てる』という力もあり、料理には欠かせないものです。

塩の味

日本でも専売法が見直された以降、様々な種類の塩がスーパーの棚に並ぶようになりました。

世界で最も高価な塩ともいわれる『大島の海塩』

山で採れる岩塩『アルペン・ザルツ』

美しい結晶の『マルドン・ソルト』

フランスの『フルールドセル』

これらの塩は自然塩と呼ばれたりもします。(この自然塩という言葉は学術用語ではない上、法律で商品に使用することは禁止されていますが、ここでは食塩(塩化ナトリウム99%の精製塩)と区別するためにこの呼称を使います)

「自然塩は食塩と違い、塩化ナトリウム以外に様々な成分が入っていて身体にいい」
「味も食塩に比べてまろやか」

こういったものが、総じて一般的な意見ではないでしょうか。

ところが『ワシントンポスト』に掲載されたひとつの論文が世論に物議を醸しました。ピッツバーグ大学の名誉化学教授、ロバート・ウォルクによるその論文の主張はなんと〈塩の味はどれも同じ〉というものだったのです。

彼はこんなことを言っています。
『塩の味の感じ方が違うのは、塩の形状によるものである。精製された食塩のほうが塩辛いという人がいるが、食卓塩の小さくて密度が高い結晶は、ゆっくりと溶ける立方体の結晶よりも塩辛さが早く押し寄せてくるので、そう感じるだけ』というのです。

「それでもミネラル分が味に与える影響は?」
この質問にウォルクはこう答えます。例えば100ccの液体に1gの塩で味付けをしてみよう。その場合の塩分濃度は1%だ。塩化ナトリウムを除いたミネラル分の濃度はさらに低い。たとえ人間の舌がわずかなミネラルの違い──例えばミネラルウォーターの味の違いがわかったとしても、料理における塩の希少係数はおよそ五万倍になるので、微妙な風味の違いが影響を与えることはない。

ウォルクによるこの論文は二つの大きな賞を受賞しました。

この論文を受けて2001年にイギリスのレザーヘッド・フード・リサーチ・アソシエーションという団体は味覚に関する実験をおこないました。

その結果は自然塩に不利なものでした。被験者は何種類もの塩を味わいわけることはできなかったのです。

長らく自然塩のほうが美味しい、と言われていたのは、ミネラル分(にがり)に含まれる少量の苦みが味にコクを与える、と信じられてきたからです。カルシウム塩とマグネシウム塩が多い塩は、料理をおいしくする、と書いてある本もあります。そのため日本で市販されている塩のなかには外国から輸入した天日塩ににがりを添加してしているものもあるのです。

しかし、コーネル大学のローレスという人が書いたカルシウム塩とマグネシウム塩が味覚に及ぼす影響について調べた論文に寄ると、それぞれのミネラルの濃度が上昇するにつれて苦みなどはたしかに強くなりますが、カルシウム塩がごくわずかに旨味を感じやすくするだけで、塩化ナトリウム99%の精製塩と自然塩とのあいだに、はっきりとした有意差は出ませんでした。

「それでも自然塩の方が身体にいいんじゃない?」

食塩1グラムあたりに含まれるミネラルの量はせいぜい何10分の1程度です。塩からミネラルを摂取することを期待するのなら、他の食品からとったほうがよっぽど健康にいいでしょう。いずれにせよ、現在の所、言えるのはこんなところです。

「塩の味は形状によって異なる。フライドポテトや焼き上げた肉などに振りかける塩は(マルドンソルトやフルールドセルのような)結晶の形の大きい塩を使うと味の違いを強調できる。パスタを茹でるときなきやスープの味付けなどには高価な塩を使う必要性は薄い」

塩の味の違いはあるのか、そしてそれがあるとすれば料理にどのような影響を及ぼすのか、いつか実験してみたいと思います。

参考文献 ロバート・ウォルク『料理の科学 1』(楽工社)

ハロルド・マギー『マギーキッチンサイエンス』(共立出版)

Jeffrey-Steingarten『It Must’ve Been Something I Ate: The Return of the Man Who Ate Everything』(Headline Book Publishing)

Text : naoya

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