• キッチン
  • 2013/7/8 05:00:44

古くて新しいステーキの焼き方〜21世紀料理教室 その2〜

〈分子料理学〉によって覆されたものは、これまでの《料理の常識》です。

「肉の表面を焼き固めても、肉汁の流失は食い止められない」

というのもそのひとつ。

〈肉汁が逃げないように表面を焼きつける〉という方法は1850年頃、ドイツの化学者ユストュス・フォン・リービッヒによって考案されました。まだ「表面を焼き固めて、旨味を閉じ込めましょう」と書いている料理本や、教えられている料理研究家の方はたくさんいますが、この考え方は1930年代に行われた実験によって否定されています。

かといって肉の表面を焼くことに意味が無いわけではありません。

表面を焼く理由は『肉の表面を焼き付けることによって褐変反応物質を生成し、風味を増すため』です

肉の表面を焼き付けることによってメイラード反応が起こり、それによってメラノイジンという芳香化合物が生成されるため、風味が増すのです。

また、メイラード反応によって生成される風味は唾液の分泌を促進します。唾液によって肉を咀嚼した際に、よりジューシーに感じられるというメカニズムです。

焼き付けることで肉汁を閉じ込める、という考え方は間違っていたものの、肉が美味しくなる、というのは正しかったわけですね。

古くて新しいステーキの焼き方

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今日はステーキを焼いてみましょう。今までの料理本にはこんな風に書かれていることが多いです。

 フライパンに油大さじ1程度を入れ、強火で熱する。フライパンが充分に温まったら、塩胡椒した肉を入れる。中火に落として、焼き色がついたら返して、裏面をさらに焼く。肉にはむやみにさわらないで、返すのは一度だけ!

分子料理学的にステーキの焼き方を考えると、上記の焼き方は「間違い」です。先に説明したように、表面を焼き固めても、水分損失は防げません。したがって、ジューシーに仕上げるにはなるべく早く火を通すしかありません。

さて、作り方をご紹介しましょう。前回、ポーチドエッグの作り方と同じヘストンブルメンタールさんとフードライター、ハロルドマギーさんの記事を参考にしました。

古くて新しいステーキ

〈材料〉

牛肉 (サーロイン、ロース、肩ロースなどステーキ用の部位ならなんでも) 300g

塩  3g

胡椒  少々

1 肉を網などに載せて冷蔵庫のあまり冷たくないところに二日間おく。

ヘストンさんが勧めるのは、簡易的なエイジングです。この過程で酵素の働きによって肉が軟らかくなり、肉の表面の水分を飛ばすことで、味を濃縮されます。また、より早く褐変反応が進むというメリットもあります。和牛などの脂の多い肉には向かない方法(=脂が酸化するため)ですが、脂の少ない外国産の肉などには有効です。

2 肉は焼く前に室温に戻しておく。

焼く前の肉の温度は、高いほど短時間で火が通ります。短時間で焼くと外側が高温にさらされる時間が短いので、よりジューシーに仕上がります。肉は調理する二時間前には冷蔵庫から出しておきましょう。「室温に戻す」というのは20度〜25度で加熱する、と同じことです。

急いでいる場合は肉を袋に入れてぬるま湯(四十度〜四十五度)につける、という方法をハロルドマギーは提案しています。

この工程によって、肉の調理時間は三分の二以下に短縮されます。(温度を上げることで肉の表面の細菌は増殖するので、その点は注意しなければいけません。しかし、この後の加熱で細菌は死滅するため、心配する必要はありません)

3 肉に塩を振る。

胡椒は絶対に振ってはいけません。胡椒はただ焦げるだけだからです。

4 フライパンに油を注ぎ入れ、強火で熱する。油から煙が出てくるくらいまで(230度)まで。

換気扇は全開にしたほうがいいでしょう。均等に火を入れるため、油はやや多めです。

5 フライパンに肉を投入する。

このときは熱い油がはねないように注意して下さい。三十秒焼いたら、裏返します。肉を投入したことで、フライパンの表面温度が下がるので、火は強いままです。また、三十秒焼いたら、裏返します。また、三十秒焼いたら裏返します。肉の厚みによっても変わりますが、この作業を計二分三十秒〜三分おこないます。

肉は一度だけ、ではなく、頻繁に裏返します。温度計で測定してみるとわかりますが、フライパンと接していない面の肉の温度はどんどん下がっていきます。頻繁に返せば両面とも熱を吸収したり、放出したりする時間がないため、肉には早く火が通り、外側が焼きすぎる心配もない、というわけです。

必要とあれば温度計で中心温度を確認しましょう。(肉が薄い場合は難しいですが) 焼き加減は表面に浮き出てくる肉汁の感じでも判別できますし、肉を触ってみた弾力でもわかります。肉の焼き加減を知る一番の方法は何回もステーキを焼いてみることです。

5 肉を皿にとります。ここで肉を五分ほど休ませます。これは非常に重要な工程です。

試しに焼き上げたばかりの肉をヘラなどで強く押さえつけてみてください。肉汁がどんどんあふれてくるのがわかります。次に休ませた肉を強く押さえつけみましょう。肉汁の流失は極端に少ないはずです。

6 胡椒を振り、サラダなどを添えて召し上がってください。

このステーキの美味しさのポイントは、温度勾配です。温度勾配とは中心部分の温度と外側にかけての温度差。低温で調理するほど、そのグラデーションは穏やかで、均一になります。

ステーキの美味しさは外側が熱くやや乾いていて、噛むと内側からジューシーな肉汁があふれるという〈小籠包〉的なもの。だから、高温で加熱したほうがいいのです。流行りの低温調理の肉を食べたとき「あれ、たいして美味しくないな」と感じるのは、この温度勾配のためですね。

(低温調理は分子料理学の発見のひとつであり、もちろんメリットもあります。例えば熟成が足りない旨味の少ない肉を調理する際にも低温調理は力を発揮するのです・・・・・・そのことはまた別の機会に)

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写真のステーキはスーパーで買ったアメリカ産の100グラム200円弱のものを使いました。このような肉でもラップをかけずに冷蔵庫に入れておく、簡易的なエイジングをおこなうことで、美味しく食べることができます。

添えたのはパルメジャーノチーズを入りのサラダです。パルメジャーノチーズに含まれるグルタミン酸は肉のイノシン酸と相乗効果があり、旨味をより感じさせることができます。

手前にあるのは[北海道産の山わさび]普通のわさびでも、わさび醤油でももちろん美味しいですが、山わさびは肉にとてもよくあいます。

それでは、また。

Text : naoya

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