• 食事情
  • 2017/6/21 05:00:32

【閲覧注意】マタギと山師が育てる広島の夏鹿の味

閲覧注意:このページは、屠殺された鹿が皮を剥がされ吊るされている映像などを含みます。ご覧になりたくない方はブラウザの<戻る>などを押して回避してください。

広島県三次市でジビエと山師の仕事を見学してきました。間伐と枝落ちが行わた針広混合林は明るく、柔らかい草を喰んだ鹿肉は、冬のそれとはことなって獣臭がほとんどなくジビエとは言え、たいへん穏やかな味わいでした。とはいえもっと間伐を行い森を循環させる必要性があるのだと考えさせられる訪問となりました、という記事です。

広島県三次市で物産館みわ375を営む片岡さんは農業の被害が増加傾向にあるという鹿やイノシシの駆除を行いながらもそれをビジネスに繋げられないかとチャレンジしています。一方、山林の間伐と間伐材から様々な木材を作り出している山師の下永さん。「山の恵み」を作りだすお二人がそれぞれに取り組んでいるのは森を循環させる仕事。一見、関連性がなさそうでも、お話しを伺ってみるとそこには深い関連があります。

訪問したのは6月5日、6日。広島県三次市三和町は広島空港から40分ほど(広島市からは1時間15分程度のようです)。向かう道すがら田んぼも畑もネットで囲われている景色が続きます。鹿やイノシシによる農作物の被害が大きいため、ネットを張り巡らせているのだとか。最初にお会いしたのは三和町で物産館とレストランの「みわ375」を営む片岡さん。「みわ375」として三和町の野菜を集めて広島市のマルシェで販売していた片岡さんは、ここ数年、徐々に獣害で野菜が集まらなくなったことをきっかけに獣害駆除に関心をもちハンターになって2年目。「動物じゃなくてまさか人間が囲われて暮らすなんてねー」と振り返ります。「最初は三和町だけで簡単に野菜がトラックいっぱいに集まったのに、次第に美和町では集まらなくなって、エリアを広げて三次市全体から必死にかき集めてやっと、という程度になってしまった」その時にこれは獣害をなんとかしないと思い立ったのだそうです。

案内していただいた狩猟するエリアとなる鹿がすんでいる山自体も鹿とイノシシが里に下りてこないように2mはあろう高さの鉄の柵で囲われています。また山中にはところどころオリによる罠も仕掛けてありました。しかし残念ながら2m程度では鹿は飛び越えてしまうのだそうです。

針葉樹と広葉樹の両方が生える山の中に入ると、間伐がされ、ところどころ光のさしている林でした。ただあまり下草は生えていません。林の外側エリアに落葉広葉樹が生え、内側に行くにしたがって針葉樹が多く生えているように感じました。片岡さん曰く「鹿は木の実などは食べず、特にこの時期であれば柔らかい葉を食べます」。この時、片岡さんはなぜそれがわかるのかなと不思議でしたが、、、それは後ほど判明します。

マダニに襲われるのを恐れて山を降り、すぐ近くにある片岡さんが営むジビエの解体加工場に。片岡さんはこのエリアのハンターがとらえた鹿やイノシシなどをこの加工場で一手に引き受けています。取材中も他のハンターから何かが罠にかかったなどの連絡が入っていました。

加工場にはイノシシや鹿などが吊るされ保管されていて、そしてちょうど2歳のメス鹿が皮が剥がされたところでした。鹿は2歳の冬に盛りになってメスは妊娠し、6ヶ月ほどした春に出産するのだそうです。片岡さんは鹿革を傷つけないように厚めに剥いて鹿革の加工品としているのだそうです。なお映像の鹿は熟成をかけていないので肉はペット用にするのだとか。

今回の鹿は捕獲時の体重が40kg。内臓はその半分を占めていて、皮は3kg程度。つまり吊るされている状態で17kgほど。骨を外すと肉としては7〜8kg程度になってしまうのだそうです。鹿はほとんど脂肪がなくいわゆる「バラ」の部分もペラペラです。腰に近い背骨についているのはフィレの部分です。片岡さんは肉以外にも、皮・骨・角などを加工して一頭の鹿からなるべく多くの商品が生まれるように工夫しています。

片岡さんが冷凍庫からバケツに入った鹿の胃袋を持ってきました。以前、狩猟に同行した時に「鹿の胃袋に穴をあけると、あまりの臭さに解体の仕事ができなくなる」と聞いていたので身構えたのですが、片岡さんが冷えた胃袋を切ると抹茶のような美しい緑色が。この鹿が食べてきた葉がぎっしりと胃袋に詰まっているのです。片岡さんが「鹿は木の実を食べない」と言っていた理由は、ご自分で鹿の胃袋を開けて内容物を確認しているからでした。「鹿の胃に森が詰まっているんですよ」と片岡さん。鹿肉は形を変えた森の味ということですね。

そこで気になったのは森の植生。獣害の多さは天敵となるオオカミの絶滅、戦後のハンターの減少などと比例関係にあるようですが、同時に気になるのは森のメンテナンス。日本は豊富な森林がありますがその活用率は4割程度。以前、道志水源涵養林を取材したときの、適切に間伐が行われ、枝落ちがあって、隙間の空いたところに光が入り下草が生える健やかな山林の循環を思い出しました。もっとしっかり間伐をすると鹿の餌が豊富になるのでは。反対に放置され樹木が密集して地面に光の届かない山林は荒れて下草も生えず、鹿にとって食べやすい若い樹木の葉もわずかなのではないか。

そんな思いを持ちながら、次に出会ったのは山師の下永さん。「きこりや」という木工の店舗を営みながら、山の地主から依頼を受けて山林の間伐をしているという下永さん曰く、「わしら山師が少なくなって木を切らなくなったから鹿やイノシシが里に降りていくんです」。ちょうど間伐の最中だと案内してくれた場所は2haの広さ。1ヶ月ほどかけて半分程度の間伐が終わったところで、そこには科の木をはじめ、鹿が喜んで食べるという樹木が倒されていました。夜になると鹿が集まって葉を食べているのだそうで、翌朝には葉を落とす必要もなくきれいになくなっているのだそうです。

下永さんは「こうやって木を切ると鹿は葉を食べ、地面には日があたりミミズが育ち、そのあと下草もたっぷり生えてくるので、これだけの広さだと2年は里に降りてこない」といいます。鹿からしてみたら普段は首の届かないご馳走が、間伐によってそこにあれば、わざわざ里の田畑に降りるまでもないのかもしれませんね。科の木の葉をちぎって口に入れてみると、苦さもえぐみもなく、やわらかくジューシーでした。なるほど調べてみるとシナノキ科にはモロヘイヤがあるのですね。そのほかにも下永さんが鹿が好むと教えてくれた葉はフルーティーな香りだったりと、鹿も相当な食通だと唸らさせられます。

下永さんは間伐した木材をご自分の工場に運んで、様々な材木を作りだします。その様子は目をみはるもので、建材などはもとより何気ない木の枝を手にして「これはドアノブになるよ」とか、キャンプ用の松明や、茶道のための敷物、子どものおもちゃなど限りありません。下永さんにとって間伐した木材の山は「宝の山」だと笑います。それは山を宝にする知恵こそが宝に違いありません。

国土の約7割が森におおわれている日本。残念ながら森林活用率は4割程度にとどまり、材木の自給率にいたっては2割前後を推移しています。しかし森を活用して木材を作りだすことは木材を使ったビジネスを活性化させるに止まらず、そこにすむ鹿が里に下りて田畑を荒らさなくても食べられるようになり、間伐した樹木の葉や下草をたっぷり食べた鹿は今よりももっと美味しくなる可能性を秘めているはずです。メンテナンスされ、良い循環の森はそれ自体がブランド力をもち、その森でとれた鹿も単に獣害駆除で生まれたジビエとは違った価値を持つようになるのではないかと想像が膨らみます。

美味しいジビエや木材など山の宝がたっぷりある、ここは宝の山。人の知恵と手によって山を宝にしていくと山も里も、そして流域にある海も豊かに。そう考えると山は宝だと気づかされる2日間でした。

動画:

Text : motokiyo

※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対して食育通信onlineは一切の責任を負いません。

ページ上部へ
ツールバーへスキップ