• 食事情
  • 2017/4/1 05:00:20

食の仕事人第43回 鰹節は海外を目指す

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世界から注目される日本料理。ところがミラノ万博で日本料理を提供する際に問題になった食材がありました。それは鰹節。じつは鰹節はそのままではEUには輸出できないのです。

その理由は鰹節を燻製する過程で生成されるベンゾピレンという化合物。鰹節にはスモークサーモンと同じ基準が適用されるため、水分が少なく軽いかつお節は100g当たりの基準を当てはめられると輸出できません。また、HACCP(衛生管理の手法)についてもアメリカは工場内だけを満たせばいいのに対し、EUでは船、港、冷凍庫、工場とそれぞれの基準を満たす必要があります。そのため、フランスやスペインなどすでに現地で生産をはじめている会社もあるほど。

そうしたなか焼津のメーカー数社が協力して、ベンゾピレンが少ないカツオ節を製造し、海外に輸出するプロジェクトに取り組んでいます。中心となった新丸正を訪れて、常務執行役員の柴田一範氏からお話を伺いました。まずは鰹節の製造工程を見学。

かつお節工場は煙と熱気に満ちていました。まずは流水解凍したかつおを処理していく生切りという工程。

「こうした作業を手で行うのは技術の継承という意味もあります。奥で作業している彼は入社して1年目ですが、若い人がこうした作業して、覚えてくれるのはありがたいことですね」

本枯節にするかつおはきれいにおろし、セイロに並べていきます。この工程がそのまま製品の形に影響するので、作業はきわめて丁寧。煮熟する際にセイロに魚の身が触れて身割れするのを防ぐために魚の中骨で保護するなど細かなところに気を配っています。

「手作業で小骨を除去していきます。火を通した身を崩さずに骨をとるには手作業しか方法がないんです」

小骨を除去したカツオは中落ちからとった身のペーストで形を整えます。傷などがあるとそこからカビが入ってしまうからです。その後、蒸して殺菌し、焙乾の作業に移ります。

はじめの焙乾に使うのは焼津式乾燥機。これは熱源が横にあり、そこから庫内に煙を送り込むもの。何度も入れてはとりだす作業を繰り返しながら、カツオから水分を抜いていきます。その後、急造庫(キュウゾッコ)という焙乾機で、燻煙によってさらに乾燥させます。これは下に薪をくべる形の直火型焙乾方式という方法で煙と熱によって、燻臭が強い節が出来上がる。焙乾に使う薪は立派な木材でした。

「国産のナラでこれにはコストがかかっています。人件費の次に高いくらいです」

こうして一ヵ月ほどの時間をかけて荒節ができあがります。焼津は日本の荒節のほとんどを製造しています。カビ付けする本枯節はさらに5~6ヵ月かかります。

P1150333.jpg「最近はだしパックがよく売れていますね。だしの素を使っていた方が化学調味料を使ったわかりやすい味ではなく天然の旨味を選ばれる傾向にあるようです。ただ国内は人口減少時代ですからスーパーの売上は下がっていると思います。対米輸出用のかつお節工場をつくったり、EU向けのかつお節工場に変えたり……という具合に変わってきています」

──焼津産と枕崎産などで味が変わってくる理由はなんですか?

「一つは製造工程、燻す木の違いとも言われています。焼津のメーカーはコナラやブナといった広葉樹で燻しますが、鹿児島は杉や松を混ぜているところが多いようです。もう一つ、理由として考えられるのはやはりカビ付けの有無です。減っているとはいえ、枯れ節をつくっているところが焼津より枕崎などが多いです。枯れ節はある意味では荒れ節の表面を削って、カビ付けしていきますので燻臭が弱くなります。そういう意味では味のパンチが弱くなる」

──高級な枯れ節のほうがおいしいと思っていましたが、そういうわけでもないんですね。

「はい。お味噌汁なんかには荒れ節のほうがおいしくできますし、お澄ましなんかは枯れ節が向いています。若い方は荒節のほうがパンチのある香りでおいしいって言いますけれど、私くらいの年齢になると枯節の旨味がわかる、というか。もちろん好みもあります用途に応じて、だと思います。焼津産は薫臭が強く、旨味がダイレクトです。そのあたりは我々の業界が伝える努力を怠ってきた部分です」

新丸正ではカツオ節に親しんでもらおうと「カツオ節ポテトチップス」も販売しています。このポテトチップスについては以前、当サイトでもご紹介させていただきました。(【「かつお節ポテトチップス」のかつお節がすごく美味しい】)

P1150663.jpg「このかつお節のポテトチップスなどはとにかく一般の消費者の方にもっとかつお節と親しんでほしいという気持ちで開発しました。色々と試したんですが、かつお節も最初から入れておくと味が落ちてしまうんですよ。それで後から加える形にしたんです。かつお節を多くの方に知っていただきたいということです。とういうのも昭和30年代までは家でかつお節を削っていて、削り節屋さんも各町に1軒はありました。ところが昭和30年代の終わりに「だしの素」のような商品が生まれ、今では削り節から出汁をとっている家庭は……どうでしょう、10%もないんじゃないでしょうか。1300年あるかつお節の伝統が途切れてしまうことは避けたい。ですから毎日は無理だとしても、1週間に1度、1ヵ月に1度でいいので、削り節から出汁をとっていただけるようご提案させていただいています」

──カツオ節の海外の反応はいかがですか。

「昔はFishy(魚臭い)という反応が多かったのですが、今は味わってもらえば大抵おいしいといってもらえます。個人的に思っていることはアメリカに行くと椎茸はShitakeとして売られていますよね。かつお節は dried bonitoとかbonito flakeと呼ばれていて、それでもわからない人がいます。これがKatsuobushiという名前で呼ばれるまで広めていきたい、ということです。日本食が世界に広まっているのはヘルシーだから。脂肪分を含まないかつお節の旨味が果たしている役割は大きいですから」

──海外の関心の高さにもかかわらず日本人も意外とかつお節のことを知らない、というのは不思議な気もします。100年後も大丈夫でしょうか。

「100年と言わずにもっと大丈夫じゃないと困ります(笑)。昨日も30名くらいの方がこられて説明しましたけど、見学などもできるだけ受け入れています。そうしたことを通じて、かつお節の良さを伝えていきたい。うま味調味料に慣れてしまうと濃い味じゃないと満足しなくなってしまいます。日本人が健康でいられるためにもそうした活動は続けていきたいですね」

取材後期〈火と煙の味〉

世界で一番硬い食材というカツオ節。おそろしいほどの手間と時間をかけてつくられるカツオ節は日本人の叡智の結晶だ。工場で印象的だったのは炎と煙の熱気だった。カツオ節は火と煙がつくりだす味なのだ。火と煙がつくりだした荒節に、E. herbariorumという麹菌を付着させ、カビによって水分を抜くことで滋味深い本枯節ができあがる。出汁をとるのは一瞬だ。でも、私たちは出汁を引く度に思い出すべきなのだろう。ここに至るまでの人の労力と長い時間がかけられていることを。

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