• 食事情
  • 2017/3/9 05:00:48

新橋名物『切腹最中』物語vol.1 〜大ヒットの影に苦悩あり?

新橋名物、『切腹最中(せっぷくもなか)』をご存じですか? ぱっくりと口を開けた最中の中に、あんこがたっぷり詰まっていて、とてもおいしいと評判です。製造、販売しているのは、新橋四丁目にある老舗の和菓子店、新正堂(しんしょうどう)です。創業は1912(大正元)年。今の場所に移転するまで、お店は、忠臣蔵の浅野内匠頭(あさのたくみのかみ)が切腹したお屋敷の跡地にありました。そこで閃いたのが、三代目の渡辺仁久(よしひさ)社長です。1990(平成2)年に『切腹最中』を発売したところ、大ヒットとなり、今では国内にとどまらず、世界中から忠臣蔵のファンが買いに訪れます。また、取引先へのお土産として、『切腹最中』を知らない新橋のサラリーマンはいません。しかし、この『切腹最中』を発売するに至るまでには、紆余曲折があったそうです。渡辺社長にその舞台裏を聞きました。

 

01切腹最中(本文用)

 

渡辺仁久社長。生粋の江戸っ子かと思いきや、出身は愛知県。もともと忠臣蔵が大好きだったそうです。

渡辺仁久社長。生粋の江戸っ子かと思いきや、出身は愛知県。もともと忠臣蔵が大好きだったそうです。

 

1980年代末、渡辺社長は焦っていました。売上は落ち込むばかりで、何か手を打たなければと、もがき苦しんでいたそうです。

 

「不安で仕方なかったから、とにかく毎日外回りばかりしていましたね。いろいろなところに飛び込み営業に行きましたよ。私は婿養子でこの家に来たものだから、菓子が作れないんです。だからとにかく動き回るしかなかった。自信もないし、知恵もねぇから、動いていると気がまぎれたんです」

 

そんなある日、社長は、知り合いから、あるアドバイスをもらいます。

 

「『お前のところの大福は旨いけど、日持ちがしない。日持ちのする新橋名物を作りなよ』と言われたんです。そういわれて考えていたときに、突然気づいたんですよ。『浅野内匠頭が切腹した場所に店があるなんてすごい!』って(笑)。それで紙に『切腹最中』と書いてみたんです」

 

ところが、このアイディアを家族に話したところ、猛反対されてしまいます。

 

「『和菓子は縁起がいいものだ、切腹なんて縁起が悪い』と、女房と女房の母が大反対。母なんて『お父さんが生きていたら……』と泣いて反対してね(笑)。それでも諦めきれずに、いろいろと考えてデザイン案を描いてみるんです。切腹のイメージに合わせて、最中の上蓋をぱかっと開けちゃった。今思うと、すごく安易なんですが(笑)」

 

こうして、『切腹最中』という抜群のネーミングに加えて、最中がぱっくり口を開けて、中のあんこが丸見えの斬新な意匠も見えてきました。しかし、今度は和菓子屋の仲間からも猛反対されます。

 

「『最中は閉じているもんだ、バカヤロー!』と先代の友達にさんざん怒られました(笑)。でも、おはぎだってあんこ丸出しなんだからいいじゃん、って思ったんですよね。『切腹最中』を考案したのは、1988(平成元)年なのですが、あまりに反対されるので、1990(平成2)年まで発売できませんでしたもの」

 

ところがです。周囲の反対を押し切って、発売したところ、これが大ヒット。今では新正堂の看板商品となりました。

 

お店のすぐ裏で、ひとつひとつ丁寧に『切腹最中』を作っています。

お店のすぐ裏で、ひとつひとつ丁寧に『切腹最中』を作っています。

 

お客さんが途切れることはありません。『切腹最中』は飛ぶように売れていきます。

お客さんが途切れることはありません。『切腹最中』は飛ぶように売れていきます。

 

「反対する回りの人間は、みな常識人だったんですよ。今となっては、非常識が勝った(笑)。私はそう思うんですね」

 

『切腹最中』が売れたのは、ネーミングや意匠がユニークだったから、だけではありません。とにかく「旨い」のです。ぱりっとした上質の皮に挟まれたあんこはすっきりとした甘さで、真ん中に求肥が入っています。この求肥が、最中の口が閉じてしまわないよう、しっかりと支えているのです。ほおばると、あんこの上品な甘さと最中の香りが口の中に広がって、病みつきになります。

 

今日も新正堂はお客さんで大にぎわいです。新橋にお出かけの際には、ぜひ立ち寄ってみてください。次回は、渡辺社長が和菓子屋として大切にしている心得に迫ります。お楽しみに!

 

05外観(本文用)

 

「新正堂」のホームページはこちらです http://www.shinshodoh.co.jp/

 

Text : harumi

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