• 食事情
  • 2017/3/1 05:00:58

食の仕事人第42回 油屋さんが山地にある理由〜菜種サラダ油〜

食の仕事人タイトル日本では遺伝子組み換えの食品は普及していない、と思われている方も多いかもしれませんが、実は大豆やコーン、菜種などの油の原料には遺伝子組み換え由来の材料が使われています。日本で遺伝子組み換えではない原材料を使っているサラダ油を探すとなると一苦労です。

埼玉県にある米澤製油は数少ない選択肢の一つ。熊谷駅から車で10分あまり、やや入り組んだ道を進むと林のなかに製油工場が見えてきます。米澤製油は明治25年の創業から今日までナタネ油を専門に扱っている老舗。埼玉には60社ほどの製油会社がありましたが現在では米澤製油、1件を残すのみになりました。

代表取締役の森田政男氏と技術顧問の山崎栄氏からお話を伺いました。

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「普通、製油会社は輸入原料の都合で海沿いに工場を構えることがほとんどです。当社が山にあるのは昔、近隣の農家から菜種を集めて絞っていた名残ですね。当社は1968年に起きたカネミ油症事件をきっかけに安心、安全な油の追求をはじめました。深刻な健康被害をもたらしたカネミ油症事件の原因はカネミ倉庫株式会社が製造したこめ油に混入したPCB(ポリ塩化ビフェニル)です。このPCBは当時、油脂の脱臭工程で熱媒体として使われていました。そうした事件を受けて、うちでは化学製品を一切使わないと決めました。例えばサラダ油を抽出する際には通常、ノルマルヘキサンという石油製品が使われています」

P1140593.jpgノルマンヘキサンの現物を見せてもらいます。匂いはベンジンに似ていかにも石油製品という印象です。原材料にノルマルヘキサンを混ぜると、含まれている油が溶け出します。その後、加熱するとヘキサンは蒸発して油が残ります。これを繰り返すことで原材料から徹底的に油をとり出すことができる、というわけです。もちろんノルマンヘキサンは揮発性のため安全には問題がない、とされています。

「ノルマルヘキサンは混入する危険はありません。ただ私たちは事件の教訓から化学物質は使うべきではない、と考えました。当社は圧力をかけて搾る昔ながらの圧搾製法を守っています。また、サラダ油に精製していくためには通常、リン酸、シュウ酸、苛性ソーダ、活性白土など様々な化学製品を使います。うちではそうした添加物は一切使用しない代わりに『湯洗い』という方法で精製しています」

P1140688.jpg薬品ではなく湯で汚れを落とす、この洗浄方式で米澤製油は特許を取得しています。湯で洗った後、遠心分離機にかけて水分を除去すればきれいな油が残るというわけです。

「洗浄に使う水は井戸水を使っています。昔は12回洗っていましたが、現在は技術も良くなったので6回です。その後、真空にして加熱する脱臭工程を経て製品になります」

湯洗い製法でつくった『なたねサラダ油』はかすかに色がついているのがわかります。ナタネ種子の葉緑素がかすかに残っているのです。大手メーカーの製品と比べると見た目の違いも一目瞭然だが、味わうとさらによくわかります。大手メーカーの製品はべったりとしているが、米澤製油の油はさらりとしているのです。

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「うちの油は胃にもたれないという声も聞きます。お客様のなかに胃の手術をされた方がいました。その方は油物を身体が受けつけなくなっていたのですが、『お宅のなら食べられる。天ぷらでもなんでも違和感もないので助かりました』というお声をいただきました。そんなことってあるんだな、と。そう言っていただけるとうれしいですね。もちろん、油にした後も無添加です。シリコンやクエン酸などを入れた製品は作っていません」

外食産業では消泡剤としてシリコンが入った食用油が多く使われています。

「シリコンの問題点は」と顧問の山崎氏は言う。「泡が出ないので油の劣化の具合がわからなくなることですね。本来の油はカニ泡が出てくるから劣化しているとわかるんです。必要以上の熱をかけず素材を活かし丁寧に作った油にはそもそもシリコンやクエン酸は必要ないものです」

安全はもちろんですが、味の差も一目瞭然。できたての油を味見させていただくと、後味が軽く、すぐに消え、後にはコク味だけが残ります。

──どうしてこのような違いが出るのでしょうか?

「そうですか。でも、それは説明するのはなかなか難しいですね。というのは油は酸度や脂肪酸の組成といった成分は分析にかけられるけれども数字上で差が出るものではないからです。でも、さきほど森田が言ってましたけど、ここのサラダ油ならもたれない、大丈夫というお客さんがいますからどこかに理由があるはずです。個人的な推測ですがこれに原因があると思う」

山崎さんはノルマルヘキサンの瓶を手にとりました。

「抽出法の場合はノルマルヘキサンと原材料を混ぜて何度も加熱しますから、やはりそれだけ熱にさらされます。精製すれば数字上は良くなるんですが、その影響はどこかにあるのかもしれない。油の敵はとにかく熱と酸素です。圧搾方式だとこの影響を最小限に抑えることができる。そういうことじゃないかな」

なるほど。おいしさの理由は製造現場にありました。いつも使う日常の油だからこそ、ちょっといいものを使いたいもの。米澤製油のなたね油は生協やAmazonなどでも手軽に購入できます。油を味わいながら、製造工程の差について考えてみてください。

〈取材後記〉 小さな種に大きな期待

与謝蕪村や正岡子規が「菜の花や月は東に日は西に」「菜の花の四角に咲きぬ麦の中」と詠んだように、菜の花畑は日本を象徴する風景の一つだった。菜の花油は食用だけではなく、行灯などにも利用されていた。いつのまにか黄色の絨毯のような菜の花畑の風景は失われてしまったが最近、新しい品種が産まれたこともあり、菜の花栽培が復活する兆しがある。米澤製油の国産100%なたね油はそれを象徴する製品だと思う。

日本のカロリーベース食糧自給率の低さは油脂と畜産物が輸入に頼っているからだ。油を国産に変えることで、私たちは日本の一次産業に貢献することができる。菜の花は黄色い花を咲かせた後、小さな種を残す。その種は本当に小さいが、期待されるものはとても大きい。

 

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