• 食事情
  • 2017/2/9 05:00:59

一丁入魂! 三善豆腐工房が育む地域の輪 vol.1 〜人から人へ、伝わる思い

町のお豆腐屋さんが減り続けています。大手スーパーの台頭、後継者不足……理由はいろいろありますが、しかし、そんな苦戦が叫ばれる中でも、地域の人たちに愛され、きちんと商売を成り立たせているお豆腐屋さんもあるのです。

東京都墨田区京島にある三善豆腐工房(みつよしとうふこうぼう)は、そのひとつです。豆腐は一丁220円。スーパーで売られている豆腐に比べると、やや高い印象がありますが、それでも豆腐は飛ぶように売れていきます。それはなぜでしょう。理由は簡単です。「おいしい」から。社長の平田慎吾さんは、豆腐の品評会で金賞を受賞したこともある職人です。原料となる大豆の研究に熱心で、時間を作っては産地に足を運び、生産者の声を聞き、大豆の味と香りを引き出す最大限の努力をしています。平田さんが長年掲げているテーマは「一丁入魂」。一丁一丁思いを込めて丁寧に作っているのです。

 

三善豆腐工房の代表取締役社長、平田慎吾さん

三善豆腐工房の代表取締役社長、平田慎吾さん

 

もうひとつ、三善豆腐工房の豆腐が売れる理由があります。それは「対面販売」に力を入れているから。2017年2月現在、取引している大手スーパーはありません。3カ所の実店舗で、スタッフがきちんと自分たちの豆腐の味をお客さんに伝えているのです。実店舗の他にもうひとつ、重要な販売ルートがあります。それは車での移動販売です。その昔、お豆腐屋さんが、ラッパを鳴らしながらリアカーを引いて、商売をしていましたが、その進化系と言ったらおおげさでしょうか。この移動販売は、ひょっとすると、地域のコミュニティー形成に一役買っているのではないか、だからこそお客さんが途切れないのではないか、そんな予感が働いて、今回、同行取材をお願いしました。

 

三善豆腐工房の移動販売車は「一丁入魂!」の文字が目印。

三善豆腐工房の移動販売車は「一丁入魂!」の文字が目印。

 

同行をお願いしたのは、井澤悠(いざわゆう)さん。入社8年目の社員です。午前11時過ぎ、車に商品を積んで出発しました。今日は両国方面に向かいます。

 

井澤悠さん。工場での豆腐作りから移動販売まで、多岐にわたる仕事を任されています。平田さんの右腕として、三善豆腐工房にとって欠かせない存在です。

井澤悠さん。工場での豆腐作りから移動販売まで、多岐にわたる仕事を任されています。平田さんの右腕として、三善豆腐工房にとって欠かせない存在です。

 

04配達準備1(本文用)

05配達準備2(本文用)

何をどれくらい持っていくかは、井澤さんの判断にすべて任されています。最初は先輩に同行し、少しずつ棚作りを学んでいったそうです。商品を並べて、値札を今日の棚に合わせて差し替えたら、準備完了。いざ、出発です! 工場からは東京スカイツリーがよく見えます。

何をどれくらい持っていくかは、井澤さんの判断にすべて任されています。最初は先輩に同行し、少しずつ棚作りを学んでいったそうです。商品を並べて、値札を今日の棚に合わせて差し替えたら、準備完了。いざ、出発です! 工場からは東京スカイツリーがよく見えます。

 

まずは、地元の佃煮屋さんに豆乳を配達しました。昔から豆乳を飲んでくれているお客さんですが、高齢で買い物が大変になってしまったため、配達をするようになったそうです。長年のお客さんだけあって、つい先日、「この前の豆乳はいつもより濃かった」と感想を伝えてくれたそうです。

 

07佃煮屋(本文用)

 

「豆乳の味の濃さは、お客さんによって好みが違います。すべての声に対応できるわけではないのですが、いつも直接感想を伝えてくれるのは、とてもうれしいですね」

 

そう言いながら、井澤さんは車を走らせ、最初の販売場所に到着しました。ラッパを鳴らして、車を停め、いよいよ販売開始です。

この音、懐かしい響きですよね?

 

駐車して間もなく、お客さんが次々に集ってきました。聞けば、いつも買いにきているお客さんばかりです。あるお客さんは「いつも12時ごろになると、『あ、そろそろだわ』と思って、ラッパが聞こえるのを待っているのよ」と教えてくれました。買うようになったきっかけも「たまたま通りかかって買ってみたら、とてもおいしくて、他の豆腐が食べられなくなった」「行きつけの美容院ですすめられて」など、さまざまです。ご近所の仲良し同士で買いにきているお客さんもいて、地域の絆を感じました。驚いたのは、商売の効率の良さです。馴染みのお客さんだけにすぐ集って、あっと言う間に買い物を済ませて帰っていきます。井澤さんの動きも実に見事で、手早く会計し、商品を手渡します。ひとつの場所で商売する時間は、せいぜい10〜15分程度。こうして次々に移動して、この日はおよそ3時間でなんと、2カ所の配達と12カ所の販売をこなしました。

 

「ここのお豆腐を子供が好きなので」とお母さん。いつも買いにくるそうです。

「ここのお豆腐を子供が好きなので」とお母さん。いつも買いにくるそうです。

 

足の悪いお客さんには、玄関まで商品を届けます。玄関先でちょっとだけ世間話。お客さんとの距離が近いからこそ、こうした交流が生まれます。

足の悪いお客さんには、玄関まで商品を届けます。玄関先でちょっとだけ世間話。お客さんとの距離が近いからこそ、こうした交流が生まれます。

 

ご近所の仲良し同士、井戸端会議が始まることもあります。「場所が少し遠いから、買いに来なくなっちゃったお友達がいるのよ」との声に、別のお客さんの会計をしていた井澤さんが「どの辺りにお住まいの方ですか?」とすかさず反応。今後回るようになるかもしれません。このようにお客さんからの情報が何より。人から人へ、販路が広がっていきます。

ご近所の仲良し同士、井戸端会議が始まることもあります。「場所が少し遠いから、買いに来なくなっちゃったお友達がいるのよ」との声に、別のお客さんの会計をしていた井澤さんが「どの辺りにお住まいの方ですか?」とすかさず反応。今後回るようになるかもしれません。このようにお客さんからの情報が何より。人から人へ、販路が広がっていきます。

 

こちらは会社の仲間でお買い物。「最初に買ったのは私で、すごくおいしかったからみんなに教えてあげたの」と手前の女性が教えてくれました。豆腐のほかにも、仕事の合間のおやつに、とおからケーキも買っていました。

こちらは会社の仲間でお買い物。「最初に買ったのは私で、すごくおいしかったからみんなに教えてあげたの」と手前の女性が教えてくれました。豆腐のほかにも、仕事の合間のおやつに、とおからケーキも買っていました。

 

客単価の高さにも驚きました。1500円近く買い物をするお客さんも珍しくありません。豆腐だけでなく、厚揚げ、豆乳、湯葉、おからなどの大豆製品はもちろん、お惣菜や糠漬けなどもよく売れます。

 

「もう年寄りだから、料理するのは大変でしょう? 晩ご飯はこの厚揚げとお惣菜で済ましちゃうのよ」と、あるおばあちゃんが話してくれました。井澤さんは、商品の説明も見事です。揚げ物やお惣菜などの加工品は、レンジで温めるといい、油を引かずにフライパンで温めるといい、などなど、商品ごとにおいしく食べる方法をしっかり伝えます。「今晩は湯豆腐にしたいんだけど」という声にも「それなら」と、ぴったりの豆腐をすすめていました。そんな風にして、あっという間に時間が過ぎました。井澤さんは一度会社に戻り、商品を補充して、夕方また販売に出るそうです。

 

帰りの道中、井澤さんは言葉を噛み締めながら話してくれました。

 

「お豆腐作りは、肉体的にきつい仕事です。正直、移動販売に出る前に体がヘトヘトになってしまうこともあるんです。でも、お客さんの『ありがとう』の声を聞いて、救われるんですよね」

 

そんな井澤さんは、なぜ三善豆腐工房に就職したのでしょうか。次回は、お豆腐屋さんの仕事に対する思いに迫ってみたいと思います。

Text : harumi

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