• レビュー食事情
  • 2014/7/30 05:00:50

映画『リヴァイアサン』の監督お二人にインタビューしました

『リヴァイアサン』は2012年にアメリカで制作された漁業のドキュメンタリー映画です。11台の防水小型カメラを使った未だかつてない強烈な映像体験と新しい視点が話題となっています。この度、8/23よりシアターイメージフォーラムを皮切りに日本で上映されることとなりました。そしてこの度、お二人の監督にインタビューする機会をいただきました。

映画『リヴァイアサン』監督のルーシャン・キャスティーヌ=テイラーさん(左)とヴェレナ・パラヴェルさん(右)

映画『リヴァイアサン』監督のルーシャン・キャスティーヌ=テイラーさん(左)とヴェレナ・パラヴェルさん(右)はハーバード大学「感覚民族誌学研究所」の人類学者。

——すばらしい映画でした。私も漁船に乗って映像収録することがあるので、この作品は新しい体験であると同時に、過去の漁船にのったときの体験が皮膚の上で克明に再現されているような印象も受けました。お二人は収録では2〜3週間にわたり船上にいらしたわけですが、船上でどんなことが大変でしたか?

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「この質問どうする?」「君、答えなよ」「え、私の番?」というようなやりとりがしばし行なわれています。

ヴェレナ:

インタビューの際に度々見つめ合って黙ってしまうのは、思い出すのが困難なわけではなく、言葉でどうやって描写したらいいんだろうかということに躊躇してしまうからなのです。というのは、船にのっていたその体験というのはあまりにも圧倒的なトラウマを心と記憶と体に残しているからじゃないかと思うのです。

——はい。

ヴェレナ:

そして、人は誰でもとくに痛みのような体験を乗り越え、忘れる方法を持っていると思うんですけれど、わたしたちにとっては、臭い、音、それから肉体的な痛みや、船酔いといったことを……あと死ぬかもしれないという恐怖みたいなものもあわさってトラウマになっているんですけれど、そのトラウマが深ければ深いほど、自分たちが映画づくりをしていこうとする、そういう勇気のようなものをもたらしてくれたと思うんです。つまり苦しんだり、そのトラウマが大きければ大きいほど、体とカメラでもって戦いに挑んでいくというような、苦しみながらも闘争していく本能を引き出したんじゃないかと思います。

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肉体的・精神的な過酷さを制作のエネルギーに転換できるお二人には感服です

——映像からも伝わりますが、撮影する側は相当過酷だったんですね。

ヴェレナ:

ただ、一方でいまわたしたちの痛みを語ることをおこがましいと思うのは、漁師の人たちは毎日、わたしたちに比べられないような辛さに耐えて生きているんだということがわかったからなんですね。身体的にも精神的にも大きな負担をかけられていると思うのです。たとえば1日20時間を3週間にわたって帆立貝の貝殻をはずす作業によって、手首が腫れ上がってしまうような特殊な職業病のようなものを引き起こしているようなのです。それほど環境と労働が厳しいのだと思いますので、自分たち二人の大変さなんかを語っていくような場合じゃないかと思います。

ルシアン:

魚達の痛みも考えなくちゃいけないよね。

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ヴェレナ:

ちょっと過剰にドラマチックに思われるかもしれませんが、私は今までの人生のなかで船の上で体験したことほど、孤独であり恐怖をもって、また死の近くであったという実感をもったことはいままでありませんでした。それは暗く深い穴の中に押し込められて、夜、寝ている間もずっとドンドンドンドンと重低音が鳴り響きつづけていて、息のできないような異常な暴力的な環境のなかですごした体験でした。

——映画でも一部体感しましたが、船底近くは船の鉄板で増幅されたエンジンの重低音で耳が聞こえなくなったかのような感じにさえなりますね。ディーゼルエンジンの排ガスと魚の干上がった臭いがあれば現実と相違ないほどのリアリティです。

ヴェレナ:

異常な暴力的体験によって自分はどれだけ小さな存在であるのか、無力な存在であるのかということを意識させられた気がするんです。そのこととつなげて、わたしたちは自分が食べたものの、集合体なのだとあらためて気づかされました。あれから自分は自分の食べるもの、口にするものすべてに対して自覚的になってきたような気がします。口にするものの食物連鎖をたどるような気持ちにもなり、同時に食べるものに対する敬意を持つようになりました。

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——食生活はどんな風に変わりましたか?

ヴェレナ:

もともと肉はあまり食べないのですけれど、たとえば魚がどこから来た魚ということを気にするようになりました。日本では魚を生で食べることが多いと思うので、心配はないのかもしれませんが、パリのレストランでは「本日の魚」と言っているものが、実は一週間前に、しかも船底に何トンも魚が積み上げられた、その底においてあった食材であったり、そしてしかも10日後だったりするわけなんです。

——それはすごいですね。

ヴェレナ:

さらに言えば、甲板を掃除するブリーチのうえに生のままに置かれていて、しかもつぶれされた魚が「本日の有機的な魚」なんて言われているんですね。場合によってはフィレにするために一旦、中国に送られて、さらにヨーロッパに送り返されたりしている魚だったりする。そういうようなことを知ってしまうと、どういう経緯で自分の口に入るのかということに対して意識は高りますね。

——単にトレサビリティができるということに留まらずに、それぞれの過程において具体的にどういう扱いを受けているか、ということに関心を持たれたということですね。そのことに関してですが、7月22日に行なわれた『リヴァイアサン』の公開プレイベントの『sweetgrass』の上映とステージディスカッションの際に『リヴァイアサン』について「魚と人間のあいだに存在するある暴力的な関係を浮き彫りにする」といった発言がありましたが、ここでいう<暴力>とは人間のどういう行為を指しているのですか?

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映画『sweetgrass』は羊飼いのカウボーイの暮らしの美しいドキュメンタリー。『リヴァイアサン』につづいてぜひ公開してもらいたい映画です。

ルシアン:

すべての生物に暴力性が備わっているとは思わないのですが、非常におとなしい生き物の存在が暴力によって阻害されていると言えるでしょう。そして人間もまた野獣になっていく——カウボーイが山の中に孤独を感じた時に、ものすごく悪い言葉を山のように吐いていくという、ああいうようなある種の暴力性が映っていると思うんですね。またリヴァイアサンでは、養殖されたエビとか、いわゆるアグロビジネスのなかにものすごい暴力性があると思います。

——はい。

ルシアン:

先ほど社会化されたシステムと仰っていたけれど、そういうところにも暴力は感じられます。そのある種の拷問のような暴力性、心身ともにある暴力性のこと、その中でもリヴァイアサンはさらに黙示録的なイメージとメッセージを込めて、家畜でない魚を巡るいろいろな暴力というものを描いているということは確かです。

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(c)Arrete Ton Cinema 2012

——(終了時間にもなったので)最後の漁業に関する質問をさせてください。

と言って、最後に映画を観て感じた日本とアメリカで行なわれている漁業の違いに関する質問を、させてただきました。この質問が予想外にお二人の驚きのリアクションとなりました。

ヴェレナ:びっくり!

ルシアン:漁師でなければ見分けることはできないでしょう。そのことを他で指摘した人はいませんでした。

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そして、いまのニューベットフォードで行なわれている漁業のリアルな実態について、12週間以上にもわたって乗船して身を挺して取材をした人でないと知り得ない貴重な話しを聞くことができました。

アメリカ漁業の実態がわかる重要なシーンも映る『リヴァイアサン』ぜひスクリーンでお確かめ下さい。

予告編

作品情報:『リヴァイアサン』(原題:Leviathan)|監督:ルーシャン・キャスティーヌ=テイラー/ヴェレナ・パラヴェル|2012年|米・仏・英|87分|8月23日~シアター・イメージフォーラムにてロードショー、他全国順次公開|公式HP:http://leviathan-movie.com/|配給:合同会社東風 http://tongpoo-films.jp/


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Text : motokiyo

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