• 食事情
  • 2013/10/10 05:02:50

『世界料理学会 特別リポート』第6回 フランスで料理をつくるということ

 

パリの二つ星『Passage 53』のシェフ、佐藤伸一シェフは学会に初参加。「彼のことを古くから知っている」という札幌『ル・ミュゼ』の石井シェフと『彼のファン』だという東京・神楽坂『ル・マンジュ・トゥー』の谷シェフが紹介し、佐藤シェフが登壇した。

佐藤伸一 1977年、北海道帯広市生まれ。札幌グランドホテル、レストラン・エノテカ札幌店を経て、22歳で渡仏。パリ・アストランス、スペイン・ムガリッツなど著名店を渡り歩き、その後はパリを中心に出張料理人となる。09年パッサージュ53のオープンに際して、シェフに就任。10年に開業一年を待たずして、ミシュラン一つ星を獲得。11年日本人シェフとして初の二つ星を獲得。開業から2年連続の昇格は、ジョエル・ロビュション、アラン・デュカス以来の快挙。

紹介のための前置きが長く、講演の時間が圧迫されて、時間が足りなくなってしまったのが残念だったが、素晴らしい講演内容だったので、少し長くなってしまうができる限りご紹介したい。

「佐藤です、よろしくお願いします」(拍手)

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「緊張して、足が震えています。谷シェフに「才能がある」って仰っていただけたんですけど、僕は全然そういうんじゃないんです。だけど、やらせていただけます。今日は他のシェフの皆様は映像などをまじえて、すごい世界のトップ向けの発表だと思うんですが、僕はアナログというか、数品、料理の写真を持ってきたので、それでお話をします」

パリで日本人料理人として働くということ

「当店の料理は料理のメインとなる素材がはっきりと主張し、考えさせるのではなく食べて素直に『美味しい』と感じてもらえる料理を心がけています。そのなかにストーリー性、オリジナリティ、そして季節感を大切に、メインとなる食材の良さがなんなのか考えて、その良さを引き出すことを考えています。私たち外国で働く日本人のシェフは当然、『日本人らしさ』というものが求められています。もしも私がフランスでフランス人とまったく同じ料理をつくるんであれば、わざわざ日本人がつくる意味がない、という風に評価されてしまうからです」

日本人らしさとは

「日本人らしさ、とは和の風味を多様した料理だけではなく、『日本人の繊細な味覚を通した料理』をつくることが必要だと私は考えています。ときに繊細すぎて、力強さがない、と評されるのも事実ですが、それこそが日本人シェフにしかつくれない料理であり、私たちの個性だと思っています。

現在のガストロノミーについて

「現在の世界のガストロノミーの流行は行き過ぎた創作から原点回帰の方向に向かっています。それでも斬新な驚きを求められることも多く、外国ではそれがジャーナリストやレストランガイドに評価されるように感じられます。その影響で、シェフたちは独自のテクニック、今までにない食材の組み合わせで驚きを与えるのに一生懸命になるあまり、お客様になにを伝えたいのか、重要な部分を捨ててしまっているように、感じています」

「もう一つ、インターネットなどによる情報伝達の早さにより、世界の料理人たちがなにをつくっているのか一瞬知ることができます。それによって他の料理人をコピーする料理人も多くなったように思います。私は『コピーの作品は本物を絶対に越えない』と、そういう風に思っています。一目見て、私、佐藤伸一の料理だとわかるような料理をつくることを心がけています」

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「最初の1品、アミューズで出している料理です。人参の滑らかなピュレをエスプーマにかけたものが器の下に入っています。上には生のまま絞った人参をゼリーにしたエスプーマ。二層構造になっています。火を通した人参と生の人参の味を合わせることで、誰もが知っている人参のようで、新しい人参の味をつくることをテーマにしています。最初の1品なので、できるだけ軽いながらも、人参の甘さでインパクトのある味に仕上げています」

ジュレは生のまま絞った人参にフルールドセルで調味し、ゼラチンに加え緩く固めた後に、エスプーマにかけたもの。ピュレはバター、オリーブオイルでシュエした人参に牛乳を加え、それを長時間テルモミックスにかけて滑らかにしたものをエスプーマにかける。

「器はベルギーのアーティストのもので、非常に薄い。持つと軽い器なんですね。器の軽さと料理の軽さをあわせたかった。軽いと言っても薄いような、弱い味ではなく、フランスの人参は香りは強く、余韻も長いので充分にインパクトのある味を感じていただけると思います」

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「次はキャビアの料理です。この料理は定番と言われている『キャビアとじゃがいも』という組み合わせが、自分のなかで「本当に相う組み合わせなのかな?」と疑問に思っていたことから生まれた料理です。キャビアとジャガイモという組み合わせからは、例えば、いくらとご飯を一緒に食べたときのような相乗効果が感じられたことがなかったんです」

まずはメイン素材であるキャビア探し。パリ中の卸業者からキャビアと取りよせ、試食を繰り返した結果、見つけたのがソーローニュ産のキャビアである。塩分が低く、熟成をかけないフレッシュ感が特徴で、その個性を出すのであれば、その味を味わえるものにしたい。そのために量は最低25gは必要だと考え、原価と価格を考慮し、一皿40ユーロという価格設定導き出す。決して安くない価格だが、原価率は50%を越えているそうだ。

「当店が赤字にならなければいい、というぎりぎりの価格設定にしました。その結果、この質でこの量は他のお店では味わえないと思うので、お客様にも好評で、追加料金にも関わらず6割から7割くらいの方が注文して下さる人気の皿になりました。もう一つ重要なことはキャビアの缶は開けた瞬間から酸化が進みます。24時間以内には使い切るようにしています」

料理の構成について、キャビアと組み合わせるジャガイモは「小麦粉を少し入れただけのニョッキ」にした。そして、それらをつなぎ合わせる要素として、両者と相性の良い乳製品を選ぶ。マスカルポーネを牛乳で少し伸ばし、バーミックスで泡立てたものをニョッキにかけることにした。「上質のキャビアからはヘーゼルナッツの香りがする」という定説から、香りつけにはヘーゼルナッツオイルを。それに砕いたヘーゼルナッツを食感のアクセントに加える。

「これで組み合わせは完成したんですけど、その後はデザインです。安くない値段設定なので、もう少し見た目に変化が欲しい。かといって、ムダな要素は加えたくない、ということで、今、皿の上にある要素からなにかをつくる必要があると考えました。そこで、ヘーゼルナッツの粉末でつくったテュイルをあわせました。じゃがいものニョッキは温かい状態です。その温かさをマスカルポーネの泡で保温し、テュイルがその熱からキャビアを守る役割も果たすわけです。上下で温度差をつくることによって、よりキャビアの味覚が強調されると思います。キャビア単体では感じられない奥深い味を楽しんでいただけると思います」

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「この料理はオープン以来、ずっとつくっている料理で、雑誌などにも紹介していただいたので、見たことがあるという方もいるかもしれません。この皿のコンセプトは「白い二つの食材で構成する」ということです」

佐藤シェフが修業していた時代のアストランスで出会った《スライスしたアボカドで、蟹の身を挟んだ》料理。

「いつも食べているアボカドというものが極薄の厚さにスライスすることによって『それまで食べたことのない食感と味の感じ方になる』というのが、とても印象的でした。それ以来、素材の切り方には注意を払っています」

十年以上前のこと、ある時、カリフラワーを薄くスライスして生のまま囓ると、とても心地よい食感になることに気がつく。そこにアーモンドオイルを加えるとぱさつき感は解消し、オイルの甘い香りで、充分に美味しいサラダになった。
カリフラワーに昔から定番と言われている組み合わせである甲殻類。出張料理をしていた時代にはタルトにしたり、サラダ仕立てにしたり、といろいろ作っていた、という佐藤氏だが、店をオープンする前に訪れたマルシェで美味しそうなイカを見つける。それを試してみるとイカの白という色もあって、食感も好みだったので、それ以来、カリフラワーとイカという組み合わせになった。

料理をつくりはじめてある日のこと。

「若干、青臭いカリフラワーが店に届いたことがありました。サラダの方はオイルでカバーでできるのですが、ピュレの方は青臭さが残ってしまう。営業直前だったので材料を交換することもできず「なんとか補正できないか」と考えだしたのが、スペイン産のフルーティーなオリーブオイルをかなりの量、混ぜ込み、マヨネーズのように乳化するという方法です。やってみると青さが消え、まろやかで美味しい味になりました。オリーブオイルのフルーティーさ、コクが加わることで、さらに美味しくなるのはもちろんなのですが『イカの味に近くなった』ように感じられたんです。それ以来、ピュレにはオリーブオイルを全液体量の3分の1から半分ほど入れるようにしているのですが、料理の一体感が増したように思っています」

「シンプルな料理ですが、この料理に関してはこれ以上足すものも引くものもない。とても自分らしい皿だと思っていますし、新しい料理を考えるときに指標として意識している料理でもあります」

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「鱈がテーマだと聞いていたので、鱈の料理です。バカンス明けに出しているセップを使った料理。僕の好きなひとつの食材を展開させて、価値を高めるという手法をとっています」

セップ茸は茸では生のスライス、ソテーしたもの、あとは牛乳とあわせてブルーテ(スープ)にしたもの。熱々のブルーテの形で提供することで、香りと料理の温度をキープできる。

「鱈はブルターニュ産。日本のものに比べても透明度が高い2.5から3cmくらいの厚さにスライス。断面に薄く砂糖を振って、少量のバターでカラメリゼしてあります。甘味から苦みに変わる瞬間にひっくり返して、裏側は余熱で、中心部がレアになるように焼き上げます。お客様のところに提供するまでに火が入るように、厚さはそこから導き出しました」

「さらに辛味のあるマスタードのクレスとノワゼットのオイルを少量加えて、味に深みを出しています。ついでに魚の下処理についてですが、当店で一切、水を使いません。アストランスの教えなのですが、魚は水道水のなかで生きてきたわけではないので、キッチンペーパーなどで血合いや水分を落として、処理しています。私の経験ではとくに大きな魚の場合は水道水で洗ったものに比べて、熟成がうまく進むように感じています。おろした魚は一晩、寝かしてから、使う少し前にフルールドセルを振って旨味を引き出します」

「この料理でも平目や的鯛を使うこともあるのですが、その場合はフィレにおろした魚にバターを塗って、軽く色がつくまで表面を焼いたあと、乾燥を防ぐためにまたバターを塗り、湿度10%に設定したオーブンで温度が80℃で火を入れます。10%の湿度というのは肉や魚の水分蒸発を抑えるためで、それ以上、湿度を与えると水っぽくなります。そうすると、さきほどの発表(ナクレの緒方さん)のように虹色の断面が得られます」

「ただここ数年、感じていることがあります。『(素材に)優しく火を入れる』という手法は僕の知る限りアラン・パッサールからはじまり、パスカルバルボにいたる、ひとつの理想だと思ってはいますが、最近は輝く断面を見せるということが目的になっている料理に出会うことが多くなっているように思います」

「この手法は、特定の料理人だけが持つ難しいテクニックではなく、誰にでもできる方法ですし、そうすることによって魚の提供温度が下がる、というデメリットがあります。我々、日本人には魚料理の仕上がりの温度が低いと、食べたときに心地よく感じられないことがあります。なので最近のPassage53では、熱々のソースであったり、ブルーテであったりを添えて、温度を上げて提供するようにしています」

「(締めの一言を、という言葉に促されて)最後、ですか。料理人というのはやっぱり毎日、朝早くから夜遅くまで命を削って仕事をしている、と感じることもあるくらい、大変な仕事だと思います。だからこそ料理人は自分の哲学をしっかり持って、コピーではない、自分らしい料理を出さなければならないと感じています。自分がフランスで経験したことを若い人たちに少しでも伝えていけるように、また自分自身もフランスで料理をする日本人料理人として、日本人の評価を高められるように、少しでも上を目指して、励んでいきたいと思います。ありがとうございました」

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