• 食事情
  • 2013/10/3 09:15:38

『世界料理学会 特別リポート』第1回 そもそも料理学会ってなんだ?

はじまりはサンセバスチャン

スペインにある人口18万人余りの小さな街、サン・セバスチャンは『世界一の美食の街』として有名だ。今では世界中から観光客が訪れるこの街には、かつて閑散とした時期があった。空港もなく、世界遺産もない。この街にはかくたる観光資源がなかった。

そんな状況を変えたのは、料理人たちだった。

1970年代後半、『アルサック』というレストランのシェフが『新・バスク料理運動』という試みをはじめる。元々、地元にある食材とフランス料理を融合させて、新しい食文化を創造しよう、という運動である。その試みの中で料理人たちは店に集まって、勉強会を開き、技術と知識を教えあった。そうすることで、次第に街全体の料理のレベルが上がっていった。『師匠から技を盗む』という徒弟制度が未だに存在している日本では考えられないことだが、この研究会がサン・セバスチャンを『世界一の美食の街』にする原点となった。

やがて、サン・セバスチャンは人口当たりでのミシェランの星付きレストランが最も多い街になる。それにあわせてホテルなどの観光産業も発展し、この街は『食を観光資源として人を集めることに成功した街』と言われるようになった。この地方再生の成功事例は世界中からモデルとして、注目されている。

『料理学会』はそのサン・セバスチャンで、先の研究会の精神を引き継いで生まれたものだ。

『料理学会』とは、世界中から料理人や食品研究者、学者などが集まり、自身の料理法や考え方、新しい知見などを発表し、共有する場である。この動きはすぐにマドリッドをはじめとする世界中の都市に広まった。

食の世界に”学会”が果たした役割は大きい。エルブジのフェラン・アドリアが披露したエスプーマをはじめとする新しい調理技法が、世界にたちまち波及したのも”学会”での発表がきっかけだった。スペインのダニ・ガルシアが2005年に発表した液体窒素を使った調理法も同じだ。言ってみれば”学会”は”料理技法のオープンソース化”を進めてきたのである。

また”学会”はいわゆる料理講習会とは、その性質が異なる。普段、会わない料理人同士が実際に会って同じ時間を過ごすことに、大きな意味がある。国籍もジャンルも違う料理人たちが、その垣根を越えて、交流を深め、お互いの普段の仕事を知ることで、自らの立ち位置を確かめる場所でもある。

この『料理学会』は日本でもやや遅れて2009年に『世界料理サミットTOKYO TASTE』が開催されている。

そして同じ2009年に函館で第一回が開催されたのが『世界料理学会inHAKODATE』だ。さきのサン・セバスチャンで、若き日を過ごした深谷宏治さんが中心となって開かれているこのイベントは、今年で四回目を迎える。大きなスポンサーや、公的な助成金は一切受けず開催される世界でも珍しい学会である。

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その前日に開かれていた『バル街』というイベントは旧市街にある飲食店が料理と酒を提供し、客はそれらを楽しみながら街を散策する、というもので、これも深谷シェフを中心に企画されている。年2回、開催されるこのイベントは今年で20回目、チケットの売れ行きも盛況で、今年も多くの人々で賑わった。

普段、夜は閑散として寂しさを感じさせる日本の地方都市が、イベントの日は賑わいを取り戻す。深谷さんたちのそういった試みの積み重ねと、ボランティアスタッフの力が料理学会の開催を支えているのだ、と感じた。

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「故郷、函館を存分に味わっていただきたい思います」と深谷さんは世界料理学会 in HAKODATEのプログラムパンフレットにそう記している。函館を味わうにはやはり実際に訪れないことにははじまらない。それはもちろんだが、これから何回かに渡って『世界料理学会 in HAKODATE』の様子をリポートする。少しでも雰囲気を感じとっていただければ幸いだ。

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一日目の会場となったのは函館市芸術ホール。五稜郭にほど近い、緑の多い公園のなかにある建物に、大勢の人が詰めかけていた。

学会はゆったりとした雰囲気ではじまった。最初に舞台袖に登壇したのは青森県、弘前市にある「レストラン山崎」シェフの山崎隆さん。まずは山崎さんが、主催者である深谷シェフを紹介し、そして深谷シェフが登壇する。

「この料理学会というのは、料理人による、料理に携わる人のための学会です。今回は司会者もみんな料理人です。山崎さんが僕を紹介したように、講演する人をみんな料理人がご紹介します。こういったところの多くではプロの司会者の方だとか、企画会社が入りますけれども、まさにこの函館の世界料理学会は名実共に、料理人による学会です。プロじゃないもんですから、下手だなぁ、と思われるところはあるかもしれませんけど、そのへんのところは多めに見て下さい」

ついで、深谷シェフは料理人の方たちを壇上に導く。

「じゃあですね、あの頑張れるように『えいえいおー』と(一同笑)みんな、よろしく。」
深谷シェフをはじめ、壇上に集まったシェフたちによる『エイエイオー』のかけ声で学会はスタートした。

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最初の講演者の紹介役は龍吟、山本征治氏。世界中の料理学会から出演の要請が来るスターシェフだ。

「もし、今日までアンドレ・チャンという存在を知らなかった、という方がいるならば、それはもうプロとしてすでに出遅れております」

山本氏はそう語り、「友人」だというアンドレ・チャン氏を紹介した。生まれ故郷、台北での料理フェアを控えているアンドレ・チャン氏は函館滞在予定は数時間という過密なスケジュールのなか、学会に参加してくれたそう。そんなアンドレチャン氏の講演で料理学会ははじまった。(第二回に続く)

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