• 食事情
  • 2013/10/1 05:00:30

シリーズ 食の仕事人 第二回 焼き麩 丸十製麩本舗

食の仕事人タイトル02

2012年に開催された『世界料理サミット TOKYO TASTE 2012』の目的には、東日本大震災復興支援が含まれていました。その際のパーティ会場でアメリカのジャーナリスト、ハロルド・マギーさんが興味を持った食べ物が『麩』です。世界的に有名なジャーナリストであるマギーさんも、もちろん『麩』については知ってますし、召し上がったことだってあるでしょう。その彼が驚いたのは、その『麩』が他で食べたものとは違うものだったからです。
麩は全国でつくられていますが、その土地性によって形や作り方が少しずつ異なります。昔は夏場に肉の代わりとして食べられる食べ物でした。

世界の食に精通しているジャーナリストを呻らせた麩をつくる職人は福島県、西会津で、頑固に昔ながらのやり方で今日も麩を作り続けています。Traveling Food Laboが取材しました。

2013-09-29-15.24.00

工房にお邪魔すると、いきなりすごい熱気です。それもそのはず中心におこされた炭で、麩が焼かれているからです。話をしてくれたのは丸十製麩三代目の田崎さん。麩を焼く日は朝の午前3時過ぎから炭をおこす作業に入るとのことです。

作り方を見せていただきました。まず麩の原料となる小麦粉とグルテンを水で練り上げます。

「うちは膨張剤、ふくらし粉の類は一切、入りません。その分、原材料費はかかるんですけどね、先代から教わったやり方だから変えるつもりはないなぁ」
20130929_2
出来上がった生地を棒に巻き付けていきます。この作業が職人技とのこと。余分な空気が入らないようにある程度、力を入れて生地を引っ張りながら、巻き付けていきますが、力が強すぎると生地が切れてしまいます。生地はもちろん日によって異なり、それを均等に巻き上げていくのはかなりの経験が要求される作業だそう。
巻き上げたものを釜にくべていきます。釜の面倒を見るのは奥様の担当。炭が焚かれた炭の上には、灰が敷き詰めてあります。炭を覆った灰で空気の量を調整することで、火の強さをコントロールしているのです。これも昔ながらの方法とのこと。

20130929_3

大きな麩を中心まで、ある程度の熱量を与えて膨らませながら、火を通すには、微妙な火加減のコントロールが必要。灰で空気の量を調節しながら行うとは巧妙なやり方で、昔の人の発想力には驚かさされます。
釜のなかでは常にコロコロと麩が転がっています。一カ所だけに火が当たると当然焦げてしまうからです。焼きムラが出ないように棒の位置を変えたり、わらを束ねた箒で灰の量を調整したりして、たえず面倒を見ます。機械での大量生産ではない、手作りならではの光景です。

「いまはいいんだけど、夏が結構、大変なんですよ。焼きたてのがあるから、ちょっと食べてみて」

そう言って、差し出された焼きたての麩は塩気こそないものの、ベーグルかフランスパンのよう。驚きの美味しさです。イーストや膨張剤が入っていないのに、なかにはちゃんと気泡ができています。

「ほんとはこういうのも食べてもらいたいんだけど、すぐに硬くなってしまうから、来てもらわないとなかなか難しいんだよ。麩は今は結構売れているんだけれど、これから核家族化の影響が出てくるかも知れない。麩を食べたことがないっていう若い人が出てきたでしょ。だから、健康にも良くて、美味しいっていう麩を、若い人に食べてもらうためにはどうすればいいか、っていうのを考えてます。今後の目標は7、8年のうちに後継者を探すこと。後継者募集中、なんですよ」

20130929_4

製品の断面を見ると3重になっているのがわかりますか? 3重巻きと呼ばれ、しっかりとした歯ごたえがあり、肉などの代用としても使えます。焼きあがった麩は、ほどよく乾いた状態でカット。その後、紐をかけ風通しの良いところで乾かします。大量生産品ではない、手作りの優しい味にはファンも多く、道の駅などでもしっかりと売れていきます。銀座の料理店でも食べられるところがあるそうです。

「昔は地元が7、それ以外が3という売り上げ比率。今は数えたことないけど逆転してるんじゃないかな。ネット販売とかはしていません。というのも注文が多くて、つくるのが追いつかないんですよ」

(取材日 2012年11月27日)

取材後記

《力強く、生き残る》

田崎さんは三代目だが、この仕事に就く前までは広告マンをしていた。実家も農家で麩産業に携わっていった訳ではない。異色の経歴と言ってもいいだろう。伝統産業はあらゆる場所で後継者不足から危機に陥っているが、田崎さんはその仕事を受け継ぎ、そして守っている。「いいものをつくっていれば、ちゃんと儲かるんですよ」と田崎さんは言った。先代からの作り方は変えていないが、売り方は若干、変えた。少量ずつ使いたいという人のために、小さくカットされた製品もある。守るべき所を見極めつつ、変えるべき所を変える。そこに伝統産業が生き残っていく方法がある。
食べ物の取材をしているとつくった製品とそのお人柄が似ている、と感じることが多々ある。真っ直ぐに伸びて、焼き上がった麩は、煮込んでも容易には崩れない力強さがあって、どこか田崎さん自身が重なって見えた。

※本コメント機能はFacebook Ireland Limitedによって提供されており、この機能によって生じた損害に対して食育通信onlineは一切の責任を負いません。

ページ上部へ
ツールバーへスキップ